マクラーレン720S GT3Xへ試乗 ほぼGT3レーシングカー 750psに6速セミAT

公開 : 2021.11.13 08:25

異次元の能力に迫ることすら難しい

エンジンを始動。待ってましたといわんばかりに激しいノイズを撒き散らす。ザラザラとした音質で生々しい。発進時は、エンジンを充分な回転数へ高めつつ、クラッチ操作が必要。一度スピードが出てしまえば、2ペダルのトランスミッションとして扱える。

ピットレーンを通過し、コースイン。これまで筆者が経験したなかで、最も痛快で刺激的で、ハードな周回になることを、すぐに思い知る。

マクラーレン720S GT3X
マクラーレン720S GT3X

事前に、マクラーレン765 LTで習熟走行を終えていた。ラインは共通しているかもしれないが、その体験は生ぬるいものだった。

765 LTでは速度と姿勢の調整が必要だったコーナーも、ドライバーが勇気を振り絞ることで、720S GT3Xはいとも簡単に回頭していく。メカニカルグリップも、ダウンフォースも驚愕するほどに高い。

身体のすべての細胞が、片方へ強く引っ張られる。そんな状況でも、ハンキーはアクセルを踏んだままで大丈夫、と耳を疑うアドバイスをくれる。遠心力で、腰はシートのサイドサポートに強く押し込まれる。

ナバラ・サーキットのどのコーナーでも、720S GT3Xの異次元の能力に迫れるほど、ブレーキングポイントを遅らせることが難しい。ABSが起動するのでは、という勢いでブレーキペダルを蹴飛ばしても、何事もなく減速する。足が痛くなるだけだ。

GT3レースでは使えない、スーパーソフト・コンパウンドのピレリ・タイヤのグリップ力も凄まじい。極めて素早く正確に、ステアリングホイールを傾けた方向へ、ノーズが向きを変える。ドーベルマンが獲物を追うように。

直線スピードは備える実力のほんの一部

トラクションの高さにも驚かされる。トラクション・コントロールは12段階の7段目を選択していたが、コーナーの出口付近でアクセルペダルを踏み込むと、ホイールスピンの予兆を伺わせる振動が出る。

練習を繰り返せば、ブレーキングポイントを詰め、理想的に旋回していくこともできるかもしれない。速度域の低いコーナーなら。

マクラーレン720S GT3X
マクラーレン720S GT3X

最高出力750psに車重1210kg、クロースギアという組み合わせだから、ストレートも恐ろしく速い。だが、直線スピードは720S GT3Xの備える動的能力の輝きの、ほんの一部に過ぎない。

V8エンジンは、狂ったように咆哮を放ち、回転数の上昇につれて素晴らしい美声へ変化する。指でシフトパドルを弾いた瞬間、トランスミッションは変速し、熱狂するような音響体験が繰り返される。

プッシュトゥパスと呼ばれる、短時間のパワーアップを許すボタンを押す。リアタイヤが路面を蹴る力が、明確に高まる。ただし、フェラーリSF90 ストラダーレの方が、中間加速はより鋭いかもしれない。

筆者がサーキットを走ったのは数周のみだが、レーシングスーツは汗で濡れていた。手も足も、マシンとの戦いで痛みを感じる。脳みそも思うように動かない。限界手前の領域で数10周もする、プロ・ドライバーの集中力と持久力に敬服し、感動させられた。

アドレナリンが放出された爽快感と、沸き立ってくる気持ちで、自然と笑顔になってしまう。マクラーレン720S GT3Xの能力は驚異的だ。そのすべてを探りたいと、何度も挑戦したくなるほど夢中の時間だった。

マクラーレン720S GT3Xのスペック

英国価格:75万ポンド(1億1625万円)
全長:4664mm(720S GT3)
全幅:2040mm(720S GT3)
全高:1196mm(720S)
最高速度:−
0-100km/h加速:2.8秒
燃費:−
CO2排出量:−
車両重量:1210kg
パワートレイン:V型8気筒3994ccツイン・ターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:750ps
最大トルク:−
ギアボックス:6速セミ・オートマティック

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジェームス・ディスデイル

    James Disdale

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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