ツインエンジンのフォルクスワーゲン・シロッコ GTI グループBマシンに迫る速さ 後編

公開 : 2022.11.12 07:06

ルール変更で出番が奪われたシロッコ

ところが、キムの圧倒的な強さにラリー主催者側が反発。ルールが変更され、ツインエンジン・シロッコの出番は奪われてしまう。「新しい規定が1987年の末に導入され、すべてのラリーカーには走行内容を記す公式のログブックが必要になったんです」

「もちろん自分も申し込みましたが、届きませんでした。どうにもなりませんでしたね。1989年に再び規定が変わり、本来のクルマにはないエンジンを搭載することがNGに。これによって、わたし以外の多くのマシンも出場できなくなったようです」

フォルクスワーゲン・シロッコ GTI ツインエンジン(1985年/英国仕様)
フォルクスワーゲン・シロッコ GTI ツインエンジン(1985年/英国仕様)

「シロッコ最後の公式イベントになったのは、1988年にマージーサイド州ウォラシーで開かれたスプリントラリーです。ここでも、多くの出場者がクルマに対して不満を口にしましたけれど」

それ以降、ツインエンジン・シロッコは公に姿を見せることはなかった。「敷地の外に停めっぱなし。やがてボディがサビ出したのでワークショップの中へ入れましたが、そのまま手つかずでした」

「地元で開かれるプロムナード・ステージズ・ラリーで、デモ走行を頼まれたのが2000年。再始動させるまでに、かなり苦労しました。他の人と同じく無茶なことをして、リアのエンジンをブローさせる始末。そのデモラン以降、また乗る機会はなかったですが」

400馬力くらいは問題なく出せる

しかし、近年になって状況が変わった。「2019年にCOVID-19が流行し、自由な時間が増えたんです。仲間は歳をとって病気がちで、クルマの再始動を考えていた頃でした」

時期を同じくして、彼が以前ラリーを戦ったロータス・サンビームも発見され、ランデブー走行を目指したレストア計画がスタートした。「ほぼ20年ぶりでしたが、すべての部品が残っていたので難しくありませんでした。資金繰りは難しかったですが」

ツインエンジンのフォルクスワーゲン・シロッコ GTIと、制作したオーナー、キム・マザー氏
ツインエンジンのフォルクスワーゲン・シロッコ GTIと、制作したオーナー、キム・マザー氏

「実は、可能な限り状態は保っていたんです。フロント側のツイン・アンチロールバーは、シングルの22mmに交換するなど、幾つか改良も施しました」

「現在はメルセデス・ベンツSLK用のスーパーチャージャーが載っています。32mmの吸気リストリクターを付けた状態で。ガスケットがスチール製なので、400馬力は問題なく出ますが、そこまでする必要はないでしょう」

2022年に再始動を果たしたツインエンジン・シロッコだったが、目指していたグッドウッド・フェスティバルでも、規定の縛りに1つの機会が奪われた。「彼らはタイムアタックさせてくれませんでした」。と、キムが残念そうに漏らす。

「車検の担当者と話すのは、時間の無駄でした。シートもシートベルトも、ロールケージも、すべて1980年代のもの。ひと目見ただけで、一蹴されていたでしょう」。苦々しい笑みを浮かべるキムの隣で、シロッコは今でも意欲的な容姿のままだ。

「このシロッコは、1980年代当時に使える部品で組み上げています。今なら、デュアルクラッチATに気筒毎のスロットルボディ、電子制御システムなどを使いたいですね」

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・ヘーゼルタイン

    Richard Heseltine

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ウィル・ウイリアムズ

    Will Williams

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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