2.2Lにボアアップで250馬力 ジェンセン・ヒーレー 一緒に過ごして半世紀 後編

公開 : 2023.04.15 07:06

瞬間的に目覚めるロータス907ユニット

ボンネットを開くと、4基並んだスロットルボディが美しい。余裕のあるエンジンルーム内は整然としており、高さを抑えるため傾けて搭載された姿を眺められる。

燃料インジェクション化されたロータス907ユニットは、瞬間的に目覚めた。3枚のペダルには充分な間隔があり、滑らかで、特に慣れが必要な部分はない。

ジェンセン・ヒーレー(1972〜1975年/英国仕様)
ジェンセン・ヒーレー(1972〜1975年/英国仕様)

走り始めると、目前に広がる長いボンネットが上下に揺れる。視覚的に柔らかい乗り心地であることを強調するが、1970年代のオープン・スポーツとして考えれば快適だ。

ステアリングラックのレシオは低く、軽すぎず、バランスの取れた身のこなしと調和している。コーナーへ突っ込むと、発生している負荷をロールで教えてくれる。限界が迫ると徐々にアンダーステアへ転じる。

トルクは太く、エンジンのレスポンスは良好。アクセルペダルの加減で、穏やかにオーバーステアへ持ち込める。トヨタ製の5速マニュアルはスムーズ。ギア比はエンジンのトルク特性にピッタリで、流暢に加速できる。

同時期のアルファ・ロメオのツインカムほど、エンジンは心地良いサウンドを鳴らさない。しかし深呼吸するような吸気音が好ましく、チューニングで得た排気量当たりの馬力には唸らされる。

1.0t弱のジェンセン・ヒーレーは、ロケットのように加速はしない。だが、低回転域からのピックアップはたくましい。オリジナルより扱いやすく、確実にパワフルだ。

ロマンスを感じさせない雰囲気が最大の弱点

誕生から半世紀を経たジェンセン・ヒーレーだが、多くは今でも恵まれた境遇にはない。オースチン・ヒーレー3000とは異なり、ラリーで優勝したような栄光もない。

決して設計は悪くなかった。いくつかの弱点を許せそうな、ロマンスを感じさせる雰囲気を備えていなかったことが、最大の弱点だったのかもしれない。

ジェンセン・ヒーレーと、オーナーのロバート・ヒックマン氏(左)、婦人のカレン・ヒックマン氏(右)
ジェンセン・ヒーレーと、オーナーのロバート・ヒックマン氏(左)、婦人のカレン・ヒックマン氏(右)

ロータス・エランのように、ジェンセン・ヒーレーは多くの人の心を捉えることはできなかった。しかし、人生の半分以上を一緒に歩んできたロバートは例外だった。

オリジナルの見た目を巧みに残しながら、適度にモダナイズされた仕上がりは素晴らしい。1人の男へ47年間も大切にしたいと思わせる、確かな魅力がここにはある。

ジェンセン・ヒーレー(1972〜1975年/英国仕様)のスペック

英国価格:1810ポンド(新車時)/2万5000ポンド(約402万円)以下(現在)
販売台数:1万926台
全長:4115mm
全幅:1605mm
全高:1219mm
最高速度:197km/h
0-97km/h加速:7.5秒
燃費:8.5km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:965kg
パワートレイン:直列4気筒1973cc自然吸気DOHC
使用燃料:ガソリン
最高出力:142ps/6500rpm
最大トルク:17.9kg-m/5000rpm
ギアボックス:4速・5速マニュアル

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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