フォード・マスタング・マッハE GTへ試乗 486ps 選ぶならRWDのロングレンジ

公開 : 2021.12.26 19:05  更新 : 2023.09.21 08:29

チャレンジングな道へ最適化できない

駆動用モーターとバッテリーという組み合わせが生み出す体験は、ドライバーを強く惹き込むほど濃くはない。伸びしろは残っているのかもしれないが。

完成度の高いドライバーズカーなら、シャシーのまとまりが輝くチャレンジングな区間で、マスタング・マッハE GTは動揺してしまう。少し気を揉ませるほど。

フォード・マスタング・マッハE GT(英国仕様)
フォード・マスタング・マッハE GT(英国仕様)

このファミリー・クロスオーバーのイメージを引っ張っているものの1つが、名前にあると思う。マスタングと聞けば、マッスルカーを想像するだろう。SUV風の純EVでも。

確かに速いことは間違いない。引き締められたスポーツサスペンションで足まわりの剛性が高まり、フォードが狙った通りの操縦性を引き出せてもいる。

しかし、どのドライブモードを選んでも、チャレンジングな道へ最適化されたような体験は得にくい。ウイスパーやアクティブという名のリラックスしたモードから、アンテイムドやアンテイムド・プラスというスポーティな設定まで、乗り心地の幅は大きいのだが。

見通しが効く滑らかなコーナーなら、気持ち良いかもしれない。でも立木などで見通しが少しでも悪くなると、途中に大きな隆起がないと確証を持てない限り、意欲的に運転したいとは思えないだろう。正直なところ。

もう少し開発へ時間を割いていれば、動的能力の影となる部分を解消させることもできたはず。ライバルモデルから学び取り、感触や落ち着き、訴求力などを高められたと思う。純EVへのシフトを後押しするモデルとして。

筆者が選ぶなら後輪駆動版のRWD

さらにマスタング・マッハE GTは、コーナー侵入時に回生ブレーキの強さを瞬間的に高めることができない。シフトパドルを何度か弾き、エンジンブレーキで減速するように。

ポルシェタイカンには備わるこの機能なら、回生ブレーキを直感的なものにしてくれる。ブレーキペダルの反応も単純化させ、摩擦ブレーキの効きを鋭く立ち上げることも可能になるはず。

フォード・マスタング・マッハE GT(英国仕様)
フォード・マスタング・マッハE GT(英国仕様)

フォード・マスタング・マッハE GTは、新時代のパフォーマンスカーだとはいえるだろう。しかし筆者には、運転へ没入するほどの体験は与えてくれなかった。操作という、より単純化されたものに感じられてしまう。それが技術革新なのかもしれないが。

体験を補うために、トルクベタリング機能が与えられている。それでも現実世界でドライバーが浸れる充足感は、長時間続くものではないように思えた。

もし筆者がマスタング・マッハEを選ぶなら、後輪駆動版のRWDを選ぶだろう。航続距離を伸ばした仕様で。現在の技術の成熟度では、充分に楽しいと思えるドライビング体験が得られる。

マスタング・マッハE GTの最高速度は199km/h。マッハE RWDは180km/hだが、航続距離はエクステンドレンジ版なら111kmも伸びる。どちらが純EVとして訴求力が高いのか、答えは明らかだ。

フォード・マスタング・マッハE GT(英国仕様)のスペック

欧州価格:6万6280ポンド(約1007万円)
全長:4712mm
全幅:1881mm
全高:1597mm
最高速度:199km/h
0-100km/h加速:3.7秒
航続距離:498km
電費:5.7km/kWh
CO2排出量:−
車両重量:2198kg
パワートレイン:ツインAC永久磁石同期モーター
バッテリー:88.8kWh(実容量)
最高出力:486ps(システム総合)
最大トルク:87.4kg-m(システム総合)
ギアボックス:−

記事に関わった人々

  • マット・ソーンダース

    Matt Saunders

    英国編集部ロードテスト・エディター
  • 中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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