30馬力でも半端ないスピード感 ジャンニーニ500 TV アバルト695 SS 凝縮された楽しさ 後編

公開 : 2023.01.22 07:06

普段の小さなハッチバックとして運転できる

スピード感は申し分ない。1速が横に飛び出たドッグレッグ・パターンのマニュアル・シフトレバーは、ゲート間を導きやすい。ギアをいたわるために、ダブルクラッチは必須。シフトアップ時もダウン時も、ニュートラルで一拍を開けたいところだ。

アバルトの乗り心地には、触れない方がいいだろう。ギリギリまで下げられた最低地上高だから、アスファルトの小さな凹凸まで逐一ドライバーへ伝えてくる。

ジャンニーニ500 TV(1966年/欧州仕様)
ジャンニーニ500 TV(1966年/欧州仕様)

乗り比べると、ジャンニーニ500 TVはサルーンのようにしなやか。アバルトほどハードコアではなく、ノーマル・サスペンションが維持されていることへ感謝したくなる。

アバルトは間違いなくサーキットマシン。対するジャンニーニは、普段乗りの小さなイタリアン・ハッチバックとして運転できそうだ。

冷間時に始動性の悪い499ccユニットが奏でるサウンドも、ヌォーヴァ500に近い。一度目覚めると、すぐに安定したアイドリングを始める。車内は695 SSと同じくタイトだが、煮詰められたパッケージングのおかげで大人を許容する。

500 TVの加速も意欲的。静止状態から20km/h前後までは活気に欠けるものの、そのまま我慢すれば勢いが高まっていく。25psしかなくても、オリジナルの500 Fと比較すれば間違いなく威勢はイイ。

小さなボディに楽しさが凝縮

操作系は基本的に695 SSと一致する。ギア比は遥かに低いようだ。シンクロメッシュも備わるため、過去にフィアット126用のトランスミッションへ載せ替えられているのだろう。トルクが細くても、変速で忙しいわけではない。

前後がドラムのブレーキもフィアットと変わらないが、ペダルの踏み心地は明らかにハード。一般道での運転のしやすさでいえば、500 TVへ軍配が上がる。サーキットでは、695 SSが逆転すると思うけれど。

ジャンニーニ500 TV(1966年/欧州仕様)
ジャンニーニ500 TV(1966年/欧州仕様)

この2台に操縦性の洗練度は求められないが、500 TVは迫るコーナーをいとも容易くこなす。ノーマルのヌォーヴァ500では、路面が濡れているとやや気を使うものだが、これなら安心して突っ込める。

とても小さなボディに、この上ない喜びが凝縮されている。アバルトとジャンニーニによって馬力が高められたヌォーヴァ500は、オリジナルが宿している楽しさも見事に高めている。

チューニングの好例が、導き出されているようだった。こう書いている今でも、つい頬が緩んでしまう。

協力:アンディ・ヘイウッド氏

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・ヘーゼルタイン

    Richard Heseltine

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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