合成燃料はエンジンを救う? パナメーラ 4S E-ハイブリッドで体験 ポルシェの南米工場へ 前編

公開 : 2023.04.29 09:45

カーボンニュートラルなら2035年以降も容認

英国にも合成燃料を提供する企業がある。コリトン社は、トタルエナジーズ社と似たプロセスで生成している。ただし、市場価格は通常のレギュラーガソリンの2倍と、なかなか現実的なものではない。

ラリーカーの開発で名の通ったプロドライブ社は、コリトン社の合成燃料でT1+ダカールというラリーマシンを走らせている。型落ちのBMW 3シリーズに乗るドライバーへも身近な存在にるよう、コスト削減に務めているそうだ。

チリ・プンタアレーナスのハルオニ工場で生成される合成燃料
チリ・プンタアレーナスのハルオニ工場で生成される合成燃料

エクソンモービル社やBP社は、1970年代にこの関連技術で特許を取得した。半世紀後に日の目を見るようになったのは、政治的な要因が大きいだろう。ポルシェだけでなく、BMWやフェラーリなども関心を寄せている。

AUTOCARの読者ならご存知の通り、欧州のEUは走行時にCO2を排出する新車の販売を2035年に禁止する、という方針を打ち出している。その結果、多くの自動車メーカーが内燃エンジンの開発を縮小し、バッテリーEV(BEV)へ注力している。

しかし先日、ドイツとイタリアがEUでの全面的なBEV化に対する懸念を表明した。市場競争での優位性を保てないのではないかと、憂慮したためだ。そして、カーボンニュートラルな合成燃料を利用することを条件に、販売を容認する決定がくだされた。

最後のもがきといえる変更は、大きな衝撃を生んでいる。今後は不透明。モータースポーツの技術者や燃料工学を専攻した学生以外、馴染みの薄い燃料は普及するだろうか。内燃エンジンに対し、楽観視は許されるだろうか。

1000億円以上の投資をするポルシェ

さて、今回の舞台は強風がやまないプンタアレーナスだ。ポルシェの試験工場に電力を供給する風力発電のブレードも、勢いよく回転している。年間で270日ぶんの、稼働に必要な電気をまかなえるという。

この工場はハルオニと呼ばれており、運営はチリのハイリー・イノヴェーティブ・フュエル(HIF)社が担っている。ポルシェは同社の株式の12%を取得しており、7500万ドル(約1012億5000万円)を投資している。

チリ・プンタアレーナスに位置するポルシェの合成燃料工場
チリ・プンタアレーナスに位置するポルシェの合成燃料工場

HIF社は、ポルシェをPRに活用したいと考えている。世界有数のブランド力を持つドイツのスポーツカーを利用すれば、合成燃料を広く認知してもらえる。

ポルシェもCO2の排出量を減らし、環境意識の高いドライバーからの支持を高め、内燃エンジンを愛するクルマ好きに希望を与えるという、幅広いメリットが得られる。

投資額は、自動車メーカーとしては巨大とまではいえないだろう。2022年にポルシェは、60億ユーロ(約8700億円)をBEVなどの開発へ費やしている。

同社は、2035年に向けたEUの決定に対し、政府へ介入した事実はないと表明している。合成燃料プロジェクトを率いるマルコス・マルケス氏は、次のように述べている。EUが販売を容認する前の発言ではあるが。

「実現可能であることを示しつつ、正式な決定を待っています。合成燃料は、環境問題の視点でも理にかなっています。電動化戦略に対する、素晴らしい追加ソリューションになるでしょう」

この続きは後編にて。

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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