合成燃料はエンジンを救う? パナメーラ 4S E-ハイブリッドで体験 ポルシェの南米工場へ 前編

公開 : 2023.04.29 09:45

合成燃料は内燃エンジンの命をつなぐのか。ポルシェによる試験工場を、英国編集部がパナメーラで訪問。可能性を探ります。

多様な準備を並行して進めるポルシェ

合計37時間を掛けて、3回のフライトを乗り継ぎ、目的地のスタート地点へ到着した。英国価格10万ポンド(約1610万円)を超える、柔らかいレザーシートとダブルガラスを備えたスーパーサルーンに乗り換えても、簡単には言葉が出てこない。

ドイツ人は、今の筆者とは違って、様々な感情や考えを多才な表現で言葉にする。ポルシェは、そんな知的なドイツのメーカーらしく、多様な事態に対応できる準備を並行して進めている。

ポルシェ・パナメーラ 4S E-ハイブリッド(欧州仕様)
ポルシェ・パナメーラ 4S E-ハイブリッド(欧州仕様)

電動化への第一歩としてリリースされたタイカンは、他社が羨むような初陣を飾った。同時にガソリンで走る最新の911 GT3も擁し、フラット6が放つ9000rpmでの咆哮を堪能することもできる。

ハイブリッド・モデルも複数ラインナップする。4.4LのV型8気筒エンジンで水素を燃焼させる試みにも挑んでいる。ニュルブルクリンク・ノルドシュライフェも、その開発現場に含まれている。

そして、別のソリューションにもポルシェは意欲的。今回、筆者がはるばる南米大陸の南端、チリ・プンタアレーナスへやって来た理由だ。

マゼラン海峡に面し、南極大陸ともそう遠くはない。氷河が削り出したフィヨルドが海岸線を形成し、海風の強い丘には鬱蒼とした森が広がり、まるで陸の孤島のよう。

ポルシェの開発拠点がある、ドイツ・ヴァイザッハからも相当に遠い。しかし、地面を大規模に掘削せずに炭化水素ベースの燃料を製造するには、理想的な場所らしい。

モータースポーツで登用される合成燃料

いわゆる合成燃料で走らんとしているのが、ラグジュアリーなスーパーサルーン。ここまで乗ってきたDHC-6ツイン・オッター飛行機の隣に停まっている、V6ツインターボエンジンのプラグイン・ハイブリッド、パナメーラ 4S E-ハイブリッドだ。

80Lの燃料タンクは、カーボンニュートラルな燃料で満たされている。ポルシェによれば、既存のV6ユニットへ特に改良を加えずに使えるという。

ポルシェ・パナメーラ 4S E-ハイブリッド(欧州仕様)
ポルシェ・パナメーラ 4S E-ハイブリッド(欧州仕様)

欧州でも話題になっている合成燃料だが、大気中に存在するCO2を利用して生産されることがポイント。エンジンを燃やしても、相対的に大気中に放出されるCO2の量は変わらない、という考えだ。

モータースポーツでは、レーシングカーを走らせる燃料に登用される動きが目立つ。2022年のル・マン24時間レースでは、出場したすべてのマシンにワインの製造過程で生まれる廃棄物を利用した、合成燃料が用いられた。

フランスのトタルエナジーズ社は、絞りかすなどを発酵させバイオエタノールを抽出。FIA認定のレース燃料を作った。イギリス国王、チャールズ3世が乗るアストン マーティンDB6にも、同じものが用いられている。

2026年には、F1でもガソリンとエタノールのブレンド燃料から、合成燃料へ切り替えられる予定。こちらは、サウジアラビアのアラムコ社が供給するという。

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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