11年ぶりロータリーエンジン復活 マツダMX-30 PHEV版の製造に「人の手」

公開 : 2023.09.14 11:11

RX-8の連装方式は不可 「8C」で解決

設計手順としては、まずBEVとして十分な性能を確保するための出力・トルクを決める。

それを実現するための排気量を検討する。

MX-30ロータリーEVエディションRの内装。前席のヘッドレストにMX-30ロータリーEV専用バッジを模したマークと「Edition R」ロゴのエンボス加工を施した。
MX-30ロータリーEVエディションRの内装。前席のヘッドレストにMX-30ロータリーEV専用バッジを模したマークと「Edition R」ロゴのエンボス加工を施した。    マツダ

ただし、ロータリーエンジンの搭載場所を車体前部と決めていたため、「RX-8」向けに開発した「13B RENESIS」など、歴代の駆動用ロータリーエンジンで採用したローターを連装する方式が採用できないことになる。

そのため、1ローターで排気量を上げた。つまり、ロータリーエンジンでは繭(まゆ)型のローターハウジングを大きくし、それに伴いローターも大型化することになる。

結果として、13B RENESISが654cc×2ローターなのに対して、新型「8C」は830ccの1ローターとした。

こうしてローターが大型化すると、ローターを“高精度でつくること”が必須となる。

そこで、まずローター素材の工程で、マツダの真骨頂であるMBD(モデルベース開発)により、鋳造での砂型の解析を行うなど、ローター内部の複雑な形状に対する内壁寸法精度を上げた。また、3Dスキャンにより3D曲面の寸法を管理し、素材寸法公差を13Bと比較して54%改善した。

また、ローターの機械加工では最短工程を設計。13Bでは多軸専用ラインでの切削で50工程あったものを、高速1軸NC(数値制御)の汎用工作機で切削9工程まで短縮した。

これにより、工程間での移動回数が減り加工の精度が上がっている。

やはり「人の手」に頼る部分も

さらに、ローターのバランス取りは、熟練工による作業からバランス測定による数値を調整加工する方式にあらため、バランス精度が13B比で75%も改善した。

1ローター大型化における、もうひとつの課題は「軽く・強くつくる」ことだった。

ロータリーエンジン「8C」機械加工工場のようす。EVとして日常使用に十分な107kmのEV航続距離に加えて、このロータリーエンジンによる発電でさらなる長距離移動に対応する。バッテリーは容量17.8kWh。3kWの充電で、満充電まで6時間20分。40kW以上の急速充電では、SOC 20%~80%まで約25分を要する。
ロータリーエンジン「8C」機械加工工場のようす。EVとして日常使用に十分な107kmのEV航続距離に加えて、このロータリーエンジンによる発電でさらなる長距離移動に対応する。バッテリーは容量17.8kWh。3kWの充電で、満充電まで6時間20分。40kW以上の急速充電では、SOC 20%~80%まで約25分を要する。    マツダ

この点については、前後のサイドハウジングを新規アルミ鋳造法で製造したことで、重量は13B比で半減以下。また、サイドハウジングの表面を、13Bでの窒素処理から高速フレーム溶射技術によりセラミック溶射を実現した。

さらに、生産性を上げるため、13Bとの加工基準を固定する部分と、新設計での変動した部分を整理した。

また、工場内では新規導入の自動運搬ロボットによって、工程・搬送をフレキシブル化している。

一方で、未だに「人の手」に頼らざるを得ない工程もある。

それが、ローターのアペックスシール、サイドシール、コーナーシールの「反力のチェック工程」だ。エンジニアがローターひとつひとつ、丁寧にチェックしていく。

こうした改善を積み重ねて量産されている「8C」搭載のMX-30ロータリーEV。

今回は工場内部の見学と、主査、デザイナー、エンジン開発者らとの意見交換が主体で実車の試乗機会はなかった。 

また日を改めて、MX-30ロータリーEVの走り味と乗り味についてレポートしたいと思う。

記事に関わった人々

  • 執筆

    桃田健史

    Kenji Momota

    過去40数年間の飛行機移動距離はざっと世界150周。量産車の企画/開発/実験/マーケティングなど様々な実務を経験。モータースポーツ領域でもアメリカを拠点に長年活動。昔は愛車のフルサイズピックトラックで1日1600㎞移動は当たり前だったが最近は長距離だと腰が痛く……。将来は80年代に取得した双発飛行機免許使って「空飛ぶクルマ」で移動?

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