悪臭と炎の町に生まれた新工場 e-ベルランゴ/コンボ Eで再生 ステランティスのEV拠点

公開 : 2023.11.23 19:05

厳格な現地生産規則へ備える

そして、これから先のプロセスが、エルズミアポート工場の将来を握る鍵となる。それが、電動パワートレインの生産だ。

英国のEU離脱(ブレグジット)の際に、厳格な現地生産規則が結ばれた。2024年以降は、英国やEUで販売されるバッテリーEVは、部品の45%と駆動用バッテリーの60%を、英国かEUで生産しなければならない。違反すると、10%の関税が掛けられる。

エルズミアポート工場の工場長、ダイアン・ミラー氏(左)と筆者
エルズミアポート工場の工場長、ダイアン・ミラー氏(左)と筆者

ステランティス・グループは、この規則の影響を当初から懸念していた。バッテリーEVの生産コストにより競争力を維持できない場合は、英国での操業中止もあり得るという。施行を2027年まで延期するよう要望も出されているが、動きはないようだ。

工場長のミラーは、事態の深刻さを認める。だが、その備えも進めている。「自国で調達するという圧力を受け、可能な限り地元で部品を入手するように務めています。ただし、コイル状の鋼材は適用外なのが救いですね」

「新しい射出成形機も、現地部品の割合を高めるための大きな投資です。ボディパネル用の金型も合わせると、2100万ポンド(約38億円)を投じています。ですが、駆動用バッテリーは中国製。これが問題となります」

「現地でバッテリーを作る必要がありますが、工場建設の費用は小さくありません。政府だけでなく、同じ立場にある自動車メーカーとの連携が欠かせません」

新生工場の成功へ向けて出だしは順調

駆動用バッテリーの生産拠点も、エルズミアポート工場の隣に竣工している。だが、規則により立ち入りは制限されている。

1台につき18モジュールで構成される50kWhのユニットが搭載されるが、1モジュール毎に同工場でテストを受ける。その後、金属製の保護ケースへ収められ、配線が組まれ、密閉され、気密性が確認される。

ヴォグゾール(オペル)・コンボ・エレクトリック LH1(英国仕様)
ヴォグゾールオペル)・コンボ・エレクトリック LH1(英国仕様)

3世代に渡ってこの工場で働く、部門担当者のマイケル・マクグラス氏が説明する。「安全性と完全性が重要です。バッテリー内へ、何も入らないようにする必要があります」。ケースを固定するボルトの締め具合は、徹底的に確かめられる。

50kWhの駆動用バッテリーの重さは、330kg。ユニット毎に自律搬送台車で運ばれ、駆動用モーターと制御ユニット、配線、回生ブレーキシステム、ステアリングやサスペンションなどと一緒に、所定の位置へレイアウトされていく。

モノレール・ラインを進むボディシェルは、別の場所で塗装を終え、必要な装備が組み付けられる。そして最後に、マリアージュと呼ばれる合体行程へ移る。

タイヤを履いたコンボ・エレクトリックは、品質管理部門へ向かう。「発見された欠陥は、工場のリソースで対応する必要があります。ご想像の通り、最初から正しく進める必要があります」。シフトマネージャーのジェブは、真剣な表情に変わる。

新生エルズミアポート工場の成功へ向けて、出だしは順調といえるだろう。グレートブリテン島全体の注目が、この歴史ある場所へ向けられている。

ヴォグゾール(オペル)・コンボ・エレクトリック LH1(英国仕様)のスペック

英国価格:3万1551ポンド(約571万円/英国政府補助金適用後)
全長:4403mm
全幅:1848mm
全高:1841mm
最高速度:−km/h
0-100km/h加速:−秒
航続距離:436km
電費:−km/kWh
CO2排出量:−g/km
車両総重量:2410kg(積載量:803kg)
パワートレイン:永久磁石同期モーター
駆動用バッテリー:50.0kWh(実容量)
急速充電能力:−kW(DC)
最高出力:138ps
最大トルク:−kg-m
ギアボックス:1速リダクション(前輪駆動)

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジョン・エバンス

    John Evans

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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