クルマ漬けの毎日から

2016.03.29

デフォルトチョイス? : お約束の選択

Porsche advocates opting for the default choice

 
今、短い休暇をとっている。それで暇な時間には、いつものことだが、次はどのクルマを買おうかとあれこれ思案している。今回は1台でやりたいことが何でもできるクルマを検討していて、予算は3万5千ポンドだ。条件としては、まずヒルクライムで十分なスピードで走れる速さが必要だ。また個人的にモータースポーツのイベントに参加したいと思っているので、敏捷でコンパクトでなければならない。それに、一人で乗っている時にいつも楽しめるクルマでなければならない。だがその一方で、休暇にかみさんと出かける時のために、ハイギヤードで高速巡航性がまずまず高くなければならない(かみさんとの旅行では、十分な広さのトランクと全天候型であることも重要だろう)。

 

 
みなさんは1台のクルマをどれくらい長く所有しているだろうか? 自動車ローンを簡単に組めるこの時代、おそらく10年未満なのではないだろうか。だが、最近、同僚のバートが長期間所有しているクルマの話を読者に募集したところ、驚くべき物語を聞くことができた。

読者のコリン・ハワードから届いた感動的な話をお伝えしよう。コリンは、親戚の家に79年前にやって来たフォード10(model C)を今も所有しているという。このクルマは、1937年にコリンの叔父、ドナルド・マッケンジーの21歳の誕生日に彼の祖父母がプレゼントしたものだった。だが、第二次世界大戦中にイギリス空軍で爆撃先導機のパイロットだったドナルドは、残念ながら不時着して死亡した。それは、フォード10をもらった6年後だった。それで、祖父母はフォード10を引き取ったが、たまにしか使わなかった。その後、コリンの叔母がこのクルマを譲り受けた。そして叔母が運転を引退した時、コリンは叔母からフォード10を買った。現在90歳になるこの叔母のガレージに、フォード10はブロックで全車輪を浮かした状態で大切に保管されている。

フォード10はやがて、コリンの孫(15歳)に引き継がれるだろう。この孫は現在、英国空軍の士官学校の生徒で、将来は空軍に籍を置くことになる。ドナルドの思い出の記念品として、また彼と同じように戦争で命を落とした人たちの勇気をたたえる記念品として、フォード10はこの孫に引き継がれるのがふさわしいとコリンは考えている。

 

 
壊れやすいクラシックカーを手に入れようとは思っていない(これまでに何度も故障したクルマを手押ししたことがあるし、錆ついたクルマも見てきたから)。だが、イギリスのあちこちで行われるブレックファースト・クラブに参加できるくらい “面白さ” があるクルマでなければならない。ブレックファースト・クラブへの参加はとくに楽しみにしている。それに、信頼性が高く、低コストで問題なく走らせることができて、自動車ジャーナリストの稼ぎで維持が可能でなければならない。

多くの人がこの答えとして即座に思い浮かべたのは、おそらく中古のポルシェ、とくにボクスターやケイマンではないだろうか。中古のポルシェには価値と性能、それにブランドバリューという魅力があるのは確かだ。こういう条件で多くの人がすぐに思い浮かべるクルマがポルシェだというのは、ポルシェを造っている人たちにとってはじつに嬉しいことだろう。だが、わが家にはすでに中古の911があるので、もう1台ポルシェを選ぶのは安易なように思う。きっと何か別の選択があるはずだ。

 

 
読者のみなさまに3万5千ポンドでどのクルマを買うか、ご意見をくださいとお願いしたところ、なるほどと思うアドバイスをたくさんいただいた。AUTOCAR読者の多数が、似たような条件でクルマ選びをしたことがあるとわかった。最初のうちは、ポルシェの信奉者から返答をいただいたようだ。彼らからは、私が “デフォルトチョイス(お約束の選択)” と名づけたクルマ(ポルシェ996と997、ボクスター、ケイマン)を選ぶことのいったいどこが悪いのかというご意見をいただいた。しかし、その後、中古のBMW M3、Z3 Mクーペ、シボレー・コルベット、さまざまなアルピナ、ジャガーXK8、XKR、アストンDB9、V8ヴァンテージを推薦する人たちからも、貴重なご意見を多数いただいた。

ところで今週、私の頭のなかでは日産370Zが有力候補として浮上し、他の候補を考えることをすっかり中断してしまっている。370Zの長所(コーナリング性能、トルク、快適性、高い信頼性、コンパクト、完璧なドライビング・ポジション、そして低価格)をこれまで見落としていたのだ。370Zには長所はたくさんあるが、ブランドバリューはない。だが、ブランドバリューなどというものは幻想にすぎないと言う人もいるだろう。ひとたび4年落ちの走行距離の少ない370Z(1万8千ポンド)に注目しはじめると、同じような走行の少ない7年落ちの370Z(1万2千ポンド)にも目が留まるようになる。現段階では、私はまだ迷っている。最終決定はこれからで、今はクルマ選びの面白さをまさに楽しんでいる。

 

 
アストン・マーティンがクロスオーバーの新型モデル、DBXを生産する工場用地として南ウェールズ(イギリス)のセント・アサンにある古い空軍基地を選んだというニュースを聞いて、懐かしくも少し不意を突かれたような気分になった。セント・アサンと聞いて、なぜそんな気分になったのかをこれからお話しよう。26年前の早春に、私はロバンDR400という飛行機を操縦して、グロスターシャー空港から飛び立った。自家用機のパイロット免許を取るためには、新人パイロットは全員、イギリスの上空を飛行して訓練を受けなければならなかったのだ。私はブリストル海峡を視界良好のなか飛行し、次に最初の目的地のカーディフ空港に向かおうとしていた。だが、じつはそこはカーディフ空港ではなく、その近くのセント・アサンだった(当時、セント・アサンはまだ稼働していた)。

まちがいに気づいて頭の中が真っ白になっていた時、カーディフ空港の管制塔から冷静な声で指示が届いた。「左へ方向転換してください。迅速に行ってください。ボーイング737が接近しています」私はなんとか指示どおりに操縦し、目的地に着陸した。それから他の新人パイロットと同じように、管制塔へ向かった。こういう訓練では “優”、“可”、“不可” の3段階で評価される。ありがたいことに、私の成績は “可” だった(本当はもっと悪い出来だったと思うが)。次回セント・アサンに向かう時には、もっと計画的に訪問したいものだ。

 

 
1976年モデルの初代フォード・フィエスタのハンドルを握って、早朝にロンドンを出発した。目的地は680mile(1,095km)離れたジュネーブ・ショーだ。なぜ、こんな変わったクルマで出かけることになったかというと、イギリスで大成功をおさめているフォード・フィエスタは今年、誕生40周年を迎えるからだ。それで、ジュネーブまでの往路は957cc/44bhpの初代フィエスタで行き、帰路は999ccの3気筒ターボの最新モデル(初代より重量は40%増え、パワーも3倍)で走り、この40年間でカー・ライフがどのように変化したかを肌で感じてみようと思いついたのだった。

 
詳しくは別の機会にご紹介するとして、今回古いクルマを運転してみて、よい点をたくさん実感できた。初代フィエスタの視界は素晴らしいし、乗り心地も驚くほど快適だ。ステアリングもパワステではないが反応はよい。それにこういうクルマを運転していると単純な楽しさをたくさん感じることができる。最近ではめったに見かけない初代を運転していると、路上で出会う多くの人たちは昔なじみのこのクルマをあたたかく迎えてくれる。途中でタイヤにちょっとしたトラブルが起きたので、故障車などめったに見ない2016年のフランスの道路に三角表示板を置き、派手な安全ジャケットを着て故障に対応するという貴重な出来事も経験した。

 
40年前からイギリスで暮らし始め、27年前にイギリス人と結婚しているが、私の同郷(オーストラリア)の人たちが “ポミー(=イギリス人)のパスポート” と呼ぶパスポートをわざわざ取得しようとしたことは一度もなかった。だが、新型フィエスタを運転してジュネーブ・ショーからイギリスへ帰る途中、オーストラリアで発行された私のパスポートをめぐって、同僚でイギリス生まれのスタン・パーピオを面白がらせる出来事が起きた。ドーバーの国境で私はイギリスの入国管理局にこの40年間で初めて足止めされてしまったのだ。

入国管理局が私の身元を確認している間、同僚のスタンはこの事態を煽ろうと、役人に向かって、「ここの責任者を呼んでください」とか、「あなたの本当の仕事は何ですか?」とか、「犯罪者を捕まえる時は、社会に貢献している気分になるでしょうね」などと言って、この状況を楽しんでいた。ほかにも、「私がだれか知ってますか?」というお決まりのセリフや、「私の父はお国のために戦いました」という極めつきのセリフも言っていた。スタンのおかげで足止めされた30分はあっという間に過ぎた。

translation:Kaoru Kojima(小島 薫)



 
 

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