【連載:清水草一の自動車ラスト・ロマン】#44 さよならは突然に!嗚呼、大貴族号

公開 : 2026.10.30 12:05

自動車はロマンだ! モータージャーナリストであり大乗フェラーリ教開祖の顔を持つ清水草一が『最後の自動車ロマン』をテーマに執筆する、隔週金曜日掲載の連載です。第44回は『さよならは突然に!嗚呼、大貴族号』を語ります。

大貴族号と命名しハラハラ感を満喫!

この連載を始めたのは、還暦を過ぎたカーマニア最後のロマンとして、「先代マセラティ・クアトロポルテの激安中古車を買おう!」と心に決めたことがきっかけだった。実際に速攻で購入して『大貴族号』と命名し、ハラハラ感を満喫していた。

しかし今回は残念な報告をしなければならない。大貴族号は逝きました……。

筆者が『大貴族号』と命名した愛車、先代マセラティ・クアトロポルテが……!
筆者が『大貴族号』と命名した愛車、先代マセラティ・クアトロポルテが……!    フォッケウルフ

今年6月、マイクロ・デポ(中古マセラティ専門店)でそれなりの費用をかけて車検を通したが、その直後からミッションの不調が多発。具体的には、信号待ち等でDからNに入れると(シングルクラッチATにつき、そのほうがメカへの負担が少ないという都市伝説アリ)、そのままミッションの警告灯が点き、Dに入らなくなるという症状だった。

車検の際、マイクロ・デポのタコちゃん(岡本和久代表)から、「テスターにかけたら、クラッチ残量10%と出ちゃった」という衝撃的な報告は受けていた(詳しくは当連載第36回『クラッチ残量は砂上の楼閣!』参照)。ひょっとして寿命が近いのかも、と覚悟していたが、それからわずか2週間で、末期的な症状が出始めたのである。

そうなった時は一旦エンジンを切り、少し待って再始動するという、イタフラ車伝統の『自然治癒法』を複数回試みて、毎回なんとか復活させていたが、大貴族号の後続車にはそれなりの迷惑をかけていた。みなさん、「マセラティだからしょうがないか」みたいな感じで抜いてってくれましたけど、心の負担はそれなりにあった。

もうダメか。いよいよダメなのか。

行動を決めるのは愛と欲望!

同時期、タコちゃんが倒れて入院。大貴族号の前途も真っ暗になった気がした。

タコちゃんの弟さん(工場長)に相談すると、「クラッチを交換すれば直るとは思いますけど……」と、あまり気が進まない感じの答えが返ってきた。そりゃまぁそうだろう。なにしろ先代クアトロポルテのデュオセレクトは超不人気で、市場価値はほぼナイ。そういうクルマに100万円以上の費用を突っ込みなさいとは、積極的には勧められまい。

先代クアトロポルテのデュオセレクトのクラッチ交換にかかる費用は100万円以上!
先代クアトロポルテのデュオセレクトのクラッチ交換にかかる費用は100万円以上!    フォッケウルフ

こういう時の行動を決めるのは、愛と欲望である。お前が好きだ、ずっと乗りたいんだよぉ! という気持ちがあれば、危機は乗り越えられる。しかし私には、そのパワーが枯渇していた。

つい最近まで「自動車のロマンは故障だ!」などと言っておきながら、いつ故障するかわからないクルマに乗るのも、もう怖くて仕方がない。昔は「フェラーリ様で爆死したい!」と本気で思っていたんだけど。

一昨年、走行中に自分のフェラーリ328が本当に炎上し、しばらく乗るのが怖くなったが、そのトラウマも残っている。以前の私なら、「経験はすべて蓄積になる。人生にムダはない!」みたいな貯金感覚があったが、フェラーリの炎上という、究極の貯金(!?)を得たことで、「これ以上貯金しても……」という、行き止まり感も芽生えていた。これがカーマニアの更年期か。

記事に関わった人々

  • 執筆 / 撮影

    清水草一

    Souichi Shimizu

    1962年生まれ。慶応義塾大学卒業後、集英社で編集者して活躍した後、フリーランスのモータージャーナリストに。フェラーリの魅力を広めるべく『大乗フェラーリ教開祖』としても活動し、中古フェラーリを10台以上乗り継いでいる。多くの輸入中古車も乗り継ぎ、現在はプジョー508を所有する。
  • 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

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