ベントレーMkV コーニッシュ(2) 設立100周年へ向けた再現 残されていたオリジナル図面

公開 : 2024.02.24 17:46

90年前の優れた動力性能を物語るメーター

運転席へ座ると、前方視界が切り取られたように見える。シートはコノリー・レザーで、ダッシュボードはウォールナット。クロームメッキの金具に、ウェスト・オブ・イングランド社製のクロス、マルーンのカーペットなど、いずれも上質な英国流だ。

イグニッションとライトのスイッチは、ロールス・ロイス・タイプ。大径なステアリングホイールの中央に、混合気と点火タイミングのレバーが付く。スミス社製のヒーターは、ダッシュボードの下部。バックミラーは小さく、後方視界は良くない。

ベントレーMkV コーニッシュ・リクリエーション(1939年式の再現モデル)
ベントレーMkV コーニッシュ・リクリエーション(1939年式の再現モデル)

スピードメーターは130マイル(209km/h)まで。タコメーターは5000rpmまで。90年近く昔のベントレーの、優れた動力性能を物語る。

ベントレーのヘリテージ・コレクションを管理するマイク・セイヤー氏は、すべての車両が実働状態であるべきだというルールを定めている。もちろん、コーニッシュも意欲的に走る。CEOのエイドリアンも、特に気に入っているクルマだとか。

実際に運転させてもらうと、その理由を理解できる。操縦系は軽く滑らか。大きなクルマを運転しているという感覚以外、不安感は生じない。

ステアリングホイールが、かなり手前に伸びる。スローなレシオで、腕を何度も動かす必要性が、全体の印象と一致しない。それでも滑らかに反応し、フロントタイヤの状況を正確に掴める。

シャシーは1939年式コーニッシュの現物

右側から伸びるシフトレバーも、至ってスムーズ。1速は、坂道発進にピッタリだ。アクセルペダルを軽く傾けるだけで、エネルギッシュに速度を増し、2速へシフトアップ。トルクが太く、発進すれば3速と4速だけで殆どの条件をまかなえる。

回転数を高めると、コーニッシュの驚くような機敏さが顕になる。比較的軽い車重を感じ取れる。現代の職人が再現した真新しいボディはきしまず、殆ど振動音を発しない。

ベントレーMkV コーニッシュ・リクリエーション(1939年式の再現モデル)
ベントレーMkV コーニッシュ・リクリエーション(1939年式の再現モデル)

エグゾーストノートはドライ。ドライバーの努力なしに、スピードを出せる。凹凸の目立つ路面でも流暢に進み、速度を保ったままカーブを抜けられる。ブレーキにはサーボが備わり、真っすぐ強力に制動力が生じる。戦前のモデルとして、唸るほど。

コーニッシュは、1950年代のベントレーが叶えていた、出色の洗練性を備える。Rタイプ・コンチネンタルが宿す、動力性能も与えられていた。ダービーの技術者は、失われた事実に心を痛めつつ、誇らしげに試作された物語を繋いできたのだ。

1台のみのコーニッシュは、実際、ドイツ人によって破壊されたのだろう。だが数奇なことに、ブランド100周年へ向けた再現を牽引したのは、ベントレーを傘下に収めるドイツの大手自動車メーカーだった。

驚くべきことに、リクリエーション・モデルの14-BV型シャシーは、オリジナルの1939年式コーニッシュに用いられていた現物だと、最近になって判明した。2019年に再生したコーニッシュへ、当時と同じナンバーを与えることまで叶ったのだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジョン・ブラッドショー

    John Bradshaw

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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