「ロールス・ロイスの起源」は電気にあった 最新スペクターへ試乗 創業者の聖地を巡礼(1)

公開 : 2023.12.18 19:05

ロールス・ロイス初のEV、スペクター 極めて速く快適で豪華なグランドツアラー 英国編集部が、電気技術者だった創業者の足跡を辿る小旅行へ

7:15 電気技術者として働き始めた創業者

ロンドンの南、テムズ川のほとりには、バタシー火力発電が存在した。現在は、特徴的な4本の煙突を残しつつリノベーションされ、商業施設へ生まれ変わっている。だが、初の電動ロールス・ロイスへ試乗するスタート地点として、望ましい場所だろう。

2023年の最も壮観な電動グランドツアラーで、グレートブリテン島を巡る小旅行に出たいと思う。ロンドンでも再開発は盛んで、スカイラインは高く伸び続けている。そこへ屈むように残るこの建物は、英国が発電を開始した時代を象徴する産業遺産だ。

ロールス・ロイス・スペクター(英国仕様)
ロールス・ロイス・スペクター(英国仕様)

電気が新しかった時代、世界に革命をもたらす可能性へ若きエンジニアは期待を膨らませた。ロールス・ロイスを創業した、若きフレデリック・ヘンリー・ロイス氏も、その1人だったに違いない。

ロイスは、自動車や航空機のエンジン開発を得意としたと考えられている。しかし、電気技術者として自身のキャリアをスタートさせている。その経歴がなければ、後に誕生する高級モデルへの見識は、違ったものになっていたかもしれない。

1870年代の混沌としたロンドンで発起し、20世紀の英国を代表する技術者の1人へ登り詰めた彼の生涯は、他に例がないような壮大なものだ。最高級の自動車ブランドを創出し、ロールス・ロイス・マリーン・エンジンを開発したのだから。

働きながら学び、電気への理解を深めた

幼い頃のロイスは生活が苦しく、9歳で電報配達の仕事を始めた。14歳を向かえるまでに、学校教育を1年しか受けていなかった。その後、歴史に刻まれる人物になると、誰が想像しただろう。

1980年代初頭、彼はロンドンの発電会社へ就職。働きながら、夜間には電球の発明者とされるハイラム・マキシム氏と、ウィリアム・アイルトン氏へ学び、電気に対する理解を深めていった。

ロールス・ロイス・スペクター(英国仕様)
ロールス・ロイス・スペクター(英国仕様)

そんな歴史を静かに回想しながら、スペクターでロンドンの北を目指す。テムズ川を越えるサザーク橋を渡り少し進むと、英国の技能認定組織、シティ&ギルズによる技術学校の跡地がある。若きロイスが、未来への階段を登っていた場所だ。

今でも沢山の学生が通りを急ぎ、授業へ向かっている。彼らが乗る大半は自転車だ。1人が、「電動のロールス・ロイスがいる」。と友人へ伝える。それでも、関心を示す人はかなり少ない。

スペクターはスルスルと市街地を抜け、ブルームズベリー地区を通過し、高速道路のM1号線へ合流。102kWhの駆動用バッテリーをフル充電すれば、400km以上の距離を走れるという。今回の旅程なら、余裕でこなせるだろう。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・ソーンダース

    Matt Saunders

    英国編集部ロードテスト・エディター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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