BMW M3/M4

公開 : 2014.07.26 19:10  更新 : 2017.05.29 17:59

先代の自然吸気V8が現行で直6ツインターボに換わったことはエンジンの情緒性を重視する趣味人的ファンには悲報だが、結果としての速さを求める現実主義者には朗報なのかもしれない。2気筒減ったエンジンは軽くなって当然なのだから。けれど、そうは問屋が卸さなかった。過給するとターボ本体のみならずチャージクーラーなど冷やしモノを始め、やたらと追加デバイスが嵩んでくる。M3/M4の場合、結果としてノーズはさほど軽くならなかったようなのだ。日本向け7段DCT仕様の車検証の数字どうしで見比べると、先代E80系M3セダンは前軸負担840kg+後軸負担810kgの計1660kgで、これに対して現行F80系M3セダンは850kg+790kgの計1640kg。装備類が異なるなどの事情を考慮しても、ハナが目覚ましく軽くなったりはしていないことが分かるのである。

とはいえ、1640kgという車両重量そのものに関して言えば、ここに収まっているのはM GmbHの功ではある。M3/M4は、E46系時代のCSLでお馴染みになったルーフパネルを始め、トランクリッドやエンジンコンパートメント補強ブレースや、果てはプロペラシャフトにまでCFRP材を多用し、他にも金型成形樹脂複合材も使って、裸の状態の車重では80kgの軽量化を果たしたという。放っておけば5シリーズ級の重さになりかねなかったのだ。

ところで、BMWに拠れば、M3とM4の性能は加速も最高速も燃費もぴたり同じだという。けれどもセダンのM3はクーペのM4よりも全高が45mmほど高く、しかも抗力係数は0.34で同じであっても前面投影面積はM4の2.29m²に対して2.23m²と大きく、そのためドラッグは2.6%ほど増えているはずだ。ちょっと不可解である。

過給器がもたらす走りの変化
さて、そんなM3とM4に富士スピードウェイで試乗した。実はこの試乗場所にはちと困惑した。M3は3シリーズの最速モデルである。しかし、グループAレース用に急遽仕立てられたE30系の初代M3がE36系M3に代替わりしたとき、クルマの性格が変わった。競技使用を前提としなくなったE36系以降のM3は、シリーズ最速であると同時に、その速さの味わいが素晴らしいという、物理と情緒を共に高レベルで担保した手練れ趣味人のためのクルマになった。だからM3とM4の評価は速さと味の両面を俎の上に載せるべきなのだ。だが、与えられた状況がこうなら後者は諦めるしかない。以降は速さというM3/M4の半面のみの報告となる。

S55型のエンジン特性は基準車のN55型との違いを見せる。低中回転からアクセルを開けたときの過給トルクに徹し、その先の高回転高負荷でパワーが伸びなくなるN55型に対して、S55型はトップエンドの7600rpmまで加速力がついてくる。お利口な燃費エンジンにはしまいというM GmbHの意地がそこに透けるようだ。ただし、そのトップエンドのパワーデリバリーに、炸裂感まではさすがに提供されない。かつて自然吸気時代のM製ユニットを特徴づけていた起承転結のカタルシスは、そこにはないのだ。ちょい濡れのメインストレートを全開でトラコン作動ランプを最初から最後まで明滅させつつ1.6tを加速させたその物理的性能の圧倒をもって武器とするこれはエンジンである。

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