BMW M3/M4

公開 : 2014.07.26 19:10  更新 : 2017.05.29 17:59

Mモデル専用の直6エンジン
モデルをコード名で呼ぶ熱心なマニアでもなければ知らぬだろうそんな件はともかく、培ってきて一般世間にアピールすべき商品イメージは継続しなければならない。だからBMWは、M3とM4に基準車とはレベルの違うエンジニアリングを投入してきた。M3とM5は、M235iだとかZ4 Mだとかいうようなマーケティングの都合で無理繰りひねり出したナンチャッテMとは違うのだ。

もはや誰もが──年季の入ったBMWファンの場合はそこに諦観と嘆息を載せて──わきまえているように、BMWはガソリンエンジンを自然吸気からターボ過給に一気に切り替えた。先代E90/E92系で自然吸気V8を載せることになったM3も、今や直6ツインターボを積む。

とは言ってもその直6ツインターボは、M135iやM235iがそうしたように、基準車と同じエンジンの高出力版を積んで知らん顔をしたりしていない。F80系M3とF82系M4が積むS55B30A型ユニットは、335i/435iのN55B30A型とは文学的にではなく、きちんと物理工学的に別のものである。

まず第一にブロックが違う。アルミダイキャスト製のN55型は金型で手間を掛けずに作るべくオープンデッキだった。シリンダー壁をとりまく水路が、ヘッド上面に空間として露出していたのだ。しかしS55型は、それをクローズドデッキとした。それには水路を形成する中子を入れておき、それが壊れぬようにアルミ溶湯を金型の中に静かに流し込んでやる必要がある。格段に手間と時間が掛かる製法である。

手間を惜しまずにそれを選択した理由は分かる。1970年代のライトシックスに端を発するBMWの直6は、ボア中間ピッチが91mmと短い。この基本を変えぬまま排気量を上げていったため、隣り合うシリンダーの間の壁は極薄になってしまった。ボア径φ84mmで3.0ℓとしたN55型は、シリンダー壁が隣と融着したようなサイアミーズ型だ。この形状で高過給をかけてMに相応しい高出力をひねり出すのは不安があったのだろう。その結果、S55型はブロック上面にシリンダー孔以外は油路と水路の小孔が開くだけの、見るからに頑丈そうな様子になった。

ターボ過給器も、N55型のツインスクロール1基に対して2基のツインターボとした。ちなみに、その最大過給圧は1.2barであり、M5用V8ツインターボに設定した1.5barよりも低くなっている。なのだが、比出力は145ps/ℓで、M5の129ps/ℓを凌駕している。あちらのボア径はφ89mmと大きくて、圧縮比もこちらの10.2に対して10.0。S55型のほうがノッキングのリスクは少なく、実際には苦しい過渡的な状況でも、遠慮なくブーストを上げることができているのだろう。

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