ポルシェ911カレラS RHD

公開 : 2012.02.01 23:59  更新 : 2017.05.29 19:07

■どんなクルマ?

われわれにとって今年、最も関心のあるスポーツカーといえば、間違いなくポルシェ911がその1台となる。そして、これが新しい’991’と呼ばれる911のカレラSだ。この新しい911は、既に昨年末にサンタバーバラで試乗会を行っている。しかし、その時は左ハンドルだけであった。今回、われわれはその右ハンドル・モデルに英国国内で試乗する機会を得たので、そのレポートをしていきたい。

乗れるだけでなく乗りこなせるのか? 狭いクロスカントリーロードでどのぐらい大きく感じるのか? どれぐらい速いのか? いままで知っている911のように見えるのか、またそのサウンドは? 疑問はたくさんある。

■どんな感じ?

そのシートメタルの下に隠された変更点は無数にのぼる。より長いホイールベースと拡張されたトレッド、標準となる7速ギアボックス、アルミニウムを多用したシャシー、電気式のパワーステアリング、アクティブロール制御、エンジン・スタートストップ・システムなど、水冷式の’993’にスイッチしたときでさえ、こんなに変更があっただろうか。全長も56mm長くなった。

ポルシェがコメントする。「ドライバーズ・シートに座った瞬間、広くなったことを感じるでしょう。パッセンジャーシートもだいぶ離れて感じることでしょう」と。確かにセンターコンソールも広がっている。ギアレバーとステアリングホイールを理想的なポジションにすると判ることだが、記憶では’997’や’996’ではステアリングホイールの左下4分の1が膝に干渉してしまっていたのだが、’991’ではそれがない。また、フロントスクリーンがより遠くになり、圧迫感がなくなった。ペダルのオフセットも僅かなものだ。リアシートは子供専用のままであるが、キャビンの残りは大幅に改善されたと言ってよいだろう。

凝ったアルミのトリム・アクセント、整理されて且つデザインに一貫性のあるスイッチ類、カチッとした材質感は、このクルマが高級車であることを教えてくれる。それは、ポルシェに対するわれわれの信用を裏切るものではない。

3.8リッターのカレラSは、15bhpパワーアップして395bhpの最高出力と、2.1kg-mアップした44.8kg-mの最大トルクを得るようになった。小さな改善が積み重ねられた7速ギアボックスは、新しい911を全域で速いクルマに仕立て上げている。そのパフォーマンスはあらゆる状況で発揮される。

3500rpmまでのホットハッチのようなスタートダッシュ、4500rpmから5000rpmまでの猛烈な勢い、6500rpmを超えてのもの凄いエキゾーストノートと共に現れるパワー。そして、それは7400rpmまで続く。

しかし、最も印象的なのは、ミッドレンジでのまるでうがいをするようなサウンドだ。中間域のポルシェ・サウンドは、シルキーではなく、どことなく刺々しい音を発する。それは、安全域でのチェーンソーの音のようにも聞こえる。

市販車史上初の7速のマニュアル・ギアボックスに慣れるのには若干の時間がかかる。トップギアは不用意にシフトアップをするのを防ぐため、5速または6速に入った状態からしか選ぶことができない。高速道路でのクルージング以外では、7速ギアを無視することさえ覚えれば、使いにくいギアボックスではないが。

英国を舞台としたドライビングとハンドリングはどうだろうか。総じて991は、抜群の安定性と落ち着きをもっていると言えるだろう。旧モデルでは、フロントアクスルに縦方向の入力があると、バランスを崩すことがあったが、それも911ではおきない。同様に、コーナリング中のパワーアンダーステアも見られない。
コーナーの立ち上がりでは信用してパワーをかければ、望んだラインをトレースすることができるのだ。ボディ・コントロールにおいて、シャシー・パフォーマンスは一切の問題がないと言えよう。

道路幅も新しい911には問題にならない。小型車と、アウディR8やアストン・マーティン・ヴィラージュの中間といったサイズを感じさせるため、狭い道でも正確にコーナリングラインをとれば、道の狭さは問題にならない。

ほぼ半世紀近く同じDNAをオーナーにもたらしてきた911。’991’でもそれは引き継がれている。素早くコーナーに進入して、ブレーキを頂点まで掛ける。軽いフロントエンドによって強化されたステアリング・レスポンスで、リア・アクスルの発揮するパワーをコントロールする。立ち上がりでアクセルを強く踏んでいけば、リアホイールにかかった重いエンジンとトランスミッションのお陰もあって、トラクションをあますところなく路面に伝え、加速をしていくという具合だ。

ステアリングホイールは路面のバンプもしっかりと伝えてくれる。スリッピーな路面も同様。しかし、どちらであっても、クルマの安定した挙動は乱れない。ブレーキをハードにかけてみても、フロントはロックすることはない。欠点を言うのであれば、電動のパワーステアリングのセンター部分に、若干曖昧な部分があるぐらいだろうか。

確かに選り好みのあるクルマかもしれない。とりわけマニュアルギアボックスについてはそうだ。また、以前のモデルのように、クリーミーと表現したくなるほどスムーズなスロットル・コントロールが、ダイレクト・インジェクション・エンジンには存在しないことも不満に思えるかもしれない。しかし、そんなことが気にならないぐらいの良さが’991’にはあった。

■「買い」か?

2012年に販売が開始される予定のこの新しいクルマについて、まだ正直な結論は出ていない。ロータス・エヴォラはピュラでバランスのとれたスリルを味合わせてくれる。それは911にはない。アストン・マーティン・ヴァンテージは911に対して鈍い感じのクルマだし、アウディR8はよく似ているが異なるところもある。表面上は、新しい911はソフトで、それら2台より、乗り心地、ハンドリング、その他において優れている。

試乗が終わってみれば、911の素晴しさに感動を覚える。その舞台が一般道でもサーキットでもいい。911のパフォーマンスを引き出せる時間と努力を注ぐことができるのであれば、911は夢中にさせらるし、価値ある喜びが得られる1台なのだが。

(マット・ソーンダース)

ポルシェ911カレラS

価格 81,242ポンド(9,749,000円)
最高速度 302km/h
0-100km/h加速 4.5秒
燃費 12.6km/l
Co2排出量 224g/km
乾燥重量 1395kg
エンジン 水平対向6気筒3800cc
最高出力 395bhp/7400rpm
最大トルク 44.8kg-m/5600rpm
ギアボックス 7速マニュアル

関連テーマ

おすすめ記事

 
最新試乗記