【理由は意外なところに】フェラーリF50、オークションで高騰 過去最高額で落札

公開 : 2021.06.03 07:05  更新 : 2021.10.11 10:56

「フェラーリF50」が、オークションで新記録となる高額落札。デビュー時は評価が伸びなかったですが、今では驚きの額で取引されています。そのワケは?

創立50周年を記念した限定車

text:Kazuhide Ueno(上野和秀)
photo:RM Sotheby’s

フェラーリがこれまでに送り出したプレミアムモデルの中で、特別な存在といえるのがF50だ。

その名の通り、フェラーリ社創立50周年を記念して、48年目となる1995年に349台限定車として登場した。

フェラーリF50(アメリアアイランド・オークション出品車)
フェラーリF50(アメリアアイランド・オークション出品車)    RM Sotheby’s

デビュー時に50年目ではないとメディアから突っ込まれたが、フェラーリ社は最終生産車を50年目(1997年)に造るので問題ないと回答したエピソードも残っている。

先に「特別な存在」と記したが、それはF50のコンセプトとクルマ造りにある。「公道を走るF1マシン」をコンセプトに、F1マシンのメカニズムをロードカーに再現してみせたのだ。

F1マシンと同様のカーボン・モノコックに、V12エンジンとギアボックスを直接結合して構造材とし、そこにリアサスペンションを組み込むという徹底ぶり。

ちなみにエンジンは、F1で使われていた軽量で剛性の高いノジュラー鋳鉄ブロックが採用され、サスペンションはF1マシンと同じプッシュロッド式だ。

このように徹底的にF1マシンのメカニズムをロードカーで再現したもので、走るのに必要のない装備は省かれ、純粋なドライビングカーに仕立て上げられていた。

ちなみにF50は6速マニュアル・ギアボックスのみの設定で、快適装備はエアコンだけ。

パワーステアリングはおろかABSやエアバッグも付かない。あくまでも真剣に運転を楽しむためだけに作られたクルマなのである。

F50がオークションに登場

コロナ禍になってからオークションはオンラインが主流になってしまう。

久しぶりにリアルで伝統のアメリアアイランド・オークションが開かれ、そこにF50が姿を現した。

フェラーリF50(アメリアアイランド・オークション出品車)
フェラーリF50(アメリアアイランド・オークション出品車)    RM Sotheby’s

出品されたF50は349台中48番目に製作された個体で、55台が作られたアメリカ仕様の内の1台。ボディカラーは定番といえるロッソコルサとなる。

このF50は新車でアメリカにデリバリーされ、ニューヨークのカイオラ氏に納車された。彼は16年間に渡りF50を楽しんできたが2011年に手放す。その時の走行距離はわずか4000マイル(約6400km)だった。

その後テキサス在住のコレクターのもとに移る。

2018年にエンジンを降ろしてガスケットからベルト、ホースなどを交換する重整備が行われ完璧なコンディションにあった。

アナログで突き詰めた時代

F50は2014年のオークションバブル以前は7000万円ほどで買えたが、バブル期は1億円から1億5000万円にまで跳ね上がる。

オークションバブル崩壊後に他のモデルが値を下げる中にあって、F50は真価が評価されて上昇し、昨年のスコッツデイル・オークションでは322万2500ドル(約3億5480万円)を記録している。

フェラーリF50(アメリアアイランド・オークション出品車)
フェラーリF50(アメリアアイランド・オークション出品車)    RM Sotheby’s

こうした背景の中で姿を現したF50は、走行5147マイル(約8235km)という低走行車で、完璧なコンディションを保っていただけに高額落札が予想された。

事前に主催者が発表した予想落札額は340~375万ドルとこれまで以上に強気で、そこまで入札が届くか危ぶまれた。しかし、オークションが始まってみれば杞憂に終わる。

入札が始まると、久しぶりのリアルなオークションということから大いに盛り上がり、最終的に新記録となる377万2500ドル(約4億1121万円)で決着がついた。

後継モデルのエンツォとラ フェラーリを見れば、F50のようなアナログで純粋に技術を突き詰めたプレミアムモデルは、もう二度と作れない時代になってしまったことが理解できる。

だからこそ、今回の落札額はF50というクルマの本質が正当に評価された結果といえ、これからも人気は続くものと思われる。F50は唯一無二の特別な存在なのである。

記事に関わった人々

  • 上野和秀

    Kazuhide Ueno

    1955年生まれ。気が付けば干支6ラップ目に突入。ネコ・パブリッシングでスクーデリア編集長を務め、のちにカー・マガジン編集委員を担当。現在はフリーランスのモーター・ジャーナリスト/エディター。1950〜60年代のクラシック・フェラーリとアバルトが得意。個人的にもアバルトを常にガレージに収め、現在はフィアット・アバルトOT1300/124で遊んでいる。

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