空気をきれいにする合成燃料とは CO2から「メタノール」を生成? 関心高まるDAC技術

公開 : 2022.05.03 18:05

空気中のCO2を回収し、燃料として利用するカーボン・ニュートラルな合成燃料技術に関心が集まっています。

大気中のCO2を水素と結合 メタノールで走る

そう遠くない将来、自動車がどのように走るかということに関しては、ほぼすべての手段が検討されている状態だ。

今のところバッテリーが有力だが、ここ1、2年はカーボン・ニュートラルな合成燃料への関心が再び高まっており、ポルシェが大きな期待を寄せている分野でもある。

ロータス・エキシージ270Eトライフューエル
ロータスエキシージ270Eトライフューエル

合成燃料の中には、ただ単にカーボン・ニュートラルというだけでなく、大気中のCO2を除去する一石二鳥のものもある。その1つが、DAC(Direct Air Capture、直接空気回収技術)と呼ばれる技術で、水素と大気中のCO2を化学反応させてメタノールを生成するものだ。

カナダのカーボン・エンジニアリング社は2015年からDACの開発を進めており、年間100万トン、樹木4000万本に相当する量のCO2を回収できるプラントを設立中だという。

英国では、サリー大学が工学物理研究会議(EPSRC)から25万ポンド(約4000万円)の支援を得て、DACによるカーボン・ニュートラルなメタノール製造プロジェクトに取り組んでいる。

メタノールは長年、代替燃料として使用されてきた。1990年代後半、メルセデス・ベンツの燃料電池部門は、燃料電池車(FCEV)を世に送り出す最速の方法は、水素ではなくメタノールの輸送であると確信していた。給油所の地下タンクにライナーを取り付け、ポンプをメタノール用に改良すれば、ガソリンや軽油と同じようにタンクローリーで輸送できるようになる。ドライバーはメタノールをガソリンのように給油するだけでよく、あとは車載の改質器でメタノールから水素を取り出すのだ。

メタノールに可能性があると考えたのは、ドイツの技術者たちだけではなかった。2006年、ノーベル賞受賞者のジョージ・オラーは『Beyond Oil and Gas: The Methanol Economy』という著書で、メタノール経済の利点を説明し、今ではよく知られている気候変動を予言したのである。

2008年、先見の明のあるエンジニア、ジェームズ・ターナー(当時ロータス・エンジニアリングの先進パワートレイン部門責任者)と同僚のリチャード・ピアソンは、ロータス・エキシージSをベースに、ガソリン、エタノール、メタノールのいずれでも走行可能な「エキシージ270Eトライフューエル」のプロトタイプを開発した。

アルコールの冷却効果で吸気の密度が高まり、また体積エネルギーはガソリンより少ないもののオクタン価も高いため、最終的なエンジン出力は標準の243psから274psにアップした。ターナーは、同車にかかる追加製造コストをわずか40ポンド(約6500円)と発表している。

ターナーとピアソンの試算によると、サッカー場2つ分の広さの工場で、人口1万6千人の町から排出されるCO2を処理することができるという。

また、大気中から回収されたCO2は建材などの固体製品の製造にも利用でき、そうすることで炭素を効果的に閉じ込め、大気中から永久的に除去(隔離)することが可能となる。

メタノールは船舶用燃料、また合成航空燃料の生産用としても真剣に検討されている。

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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