6.3L V8エンジンのGTサルーン メルセデス・ベンツ300 SEL 6.3 ジェンセンFF 後編

公開 : 2022.09.24 07:06

世界最高峰の技術や豪華さを詰め込んだ、1960年代末のメルセデスとジェンセン。英国編集部が2台をご紹介します。

ボンネット越しの眺めが壮観な300 SEL

今回ご紹介するゴールドのジェンセンFFは、マーティン・リッチー氏がオーナーの1969年式Mk I。15年前に初代オーナーから購入し、コンクール・コンディションが保たれている。

他方、右ハンドルのメルセデス・ベンツ300 SEL 6.3は約700台が生産された。今回のクルマは1970年式で、コストの掛かるエアサスペンションのリビルドを最近受けている。SLショップという、英国のクラシックカー・ディーラーが販売中だ。

ブラックのメルセデス・ベンツ300 SEL 6.3と、ゴールドのジェンセンFF
ブラックのメルセデス・ベンツ300 SEL 6.3と、ゴールドのジェンセンFF

運転席に座ると、FFはドライバーを取り囲むように心地いい。まさに、着る感じ。300 SEL 6.3は後ろに長く、1人で乗っていると少し寂しい。どちらもインテリアは豪華で、ガラスエリアが大きく前方だけでなく全方向の視界に優れる。

300 SEL 6.3のボンネット越しの眺めは壮観。巨大なステアリングホイールの奥に、端正なダッシュボードが配され、フロントガラスの両サイドからワイパーが伸びる。右膝にあるレバーは、エアサスの車高調整用だという。

FFのダッシュボードやセンターコンソールは飛行機的。ランボルギーニ・ミウラもこんな雰囲気だった。沢山のスイッチが並び、8トラック・カセットデッキが時代を物語る。中央の丸いセレクターは、後期型では省かれたリアサスペンションの調整用。

パワーウインドウは両車に装備されるが、エアコンは300 SEL 6.3だけ。FFは四輪駆動のトランスファーがあり、センタートンネルが大きい。

今でも猛烈に感じる勢いで加速する

300 SEL 6.3のボンネットを開くと、巨大な6.3L V型8気筒エンジンが姿を現す。前端に見える小さなポンプは、エアサスのもの。素晴らしい乗り心地を叶えているものの、メカニズムとして弱点でもあった。

FFのフロントに載るのは、クライスラー社製の6.3L V型8気筒。4バレル・キャブレーターを覆う、大きなエアクリーナー・ボックスで殆ど見えないけれど。アイドリング時は驚くほどスムーズで、メルセデス・ベンツのユニットより上品。

メルセデス・ベンツ300 SEL 6.3(1968〜1972年/英国仕様)
メルセデス・ベンツ300 SEL 6.3(1968〜1972年/英国仕様)

ゆっくりレバーを傾けDを選ぶ。クリーミーに3速ATがギアをつなぎ、FFは勇ましく加速する。カタログ上の最高出力は253psに対し329psでジェンセンが勝るが、200km/h前後までの加速は3秒ほどメルセデス・ベンツに遅れる。確かに若干マイルドだ。

車重が約100kg重いことや、四輪駆動システムの内部抵抗などが関係している。ドイツ人の馬力計測が、より正直だったということも大きいと思う。

サウンドも個性的。300 SEL 6.3は威圧的で金属音が大きい。FFはドロドロと内蔵に響く低音が強い。

300 SEL 6.3の4速ATは、発進時に2速が選ばれる。ドライブトレインを保護するためだろう。アクセルペダルを完全に倒すと1速へ落とせる。高価なミシュランXWXタイヤから、僅かに白煙が立ち上がる。

レブリミットは5100rpmと低いものの、ボッシュ社の機械式インジェクションが盛大にガソリンを噴霧するから、アクセルレスポンスは想像以上に鋭い。3速へキックダウンさせると、今でも猛烈に感じる勢いで速度を上げる。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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