6.3L V8エンジンのGTサルーン メルセデス・ベンツ300 SEL 6.3 ジェンセンFF 後編

公開 : 2022.09.24 07:06

四輪駆動が生む優れた旋回性とトラクション

きついカーブでは、リアタイヤのトラクションを失わせるだけのトルクが湧き出る。乾燥路でも、雷鳴を轟かせながら派手なテールスライドを披露する。4速ATの変速も軽快。華奢なセレクターを操作すれば、3速を選んでエンジンブレーキもかけられる。

操舵感も、300 SEL 6.3は想像以上に好ましい。コーナーへ突っ込むとボディがロールし、フロントの重さが伝わってくるが、エアサスペンションのセルフレベリング機能が効果的に水平を保とうとしてくれる。ブレーキのバランスも良い。

メルセデス・ベンツ300 SEL 6.3(1968〜1972年/英国仕様)
メルセデス・ベンツ300 SEL 6.3(1968〜1972年/英国仕様)

メルセデス・ベンツらしく、身のこなしは洗練されている。FFのフロントがコイルでリアがリーフというスプリングの組み合わせでは、叶えようがない。といっても、乗り心地が悪いわけではない。肉厚なタイヤと車重が功を奏し、安定している。

FFで印象的なのが、自慢の四輪駆動システムがもたらす優れた旋回性とトラクション。操縦性にまとまりがあり、余計なクセも感じられない。

正確に反応するステアリングホイールを回しアクセルペダルを傾けると、リアタイヤがフロントタイヤへ追従し、グリップ力にも余裕を感じる。操舵感は軽すぎるものの、慣れれば目的地まで安楽に飛ばせるだろう。1967年のモデルとして、感心するほど。

車載技術が急速に進むなかにあって、当時の自動車評論家は、公道用モデルに複雑なメカニズムを採用することへ疑問を呈した。FFは最後まで認められなかった。

抗し難い英国車としての重要性や希少性

ジェンセンのFFとメルセデス・ベンツの300 SEL 6.3は、異なる技術的な哲学で設計されている。同時に、大人4名が安全で高速に長距離を移動できるという能力で共通している。スタイリングやドアの枚数は違っていても。

1960年代後半から1970年代初頭にかけての、傑作といっていい。近年の取引価格が近似しているという事実は、同等に価値が評価されていることを示している。状態の良い例も、同等に少ない。

ブラックのメルセデス・ベンツ300 SEL 6.3と、ゴールドのジェンセンFF
ブラックのメルセデス・ベンツ300 SEL 6.3と、ゴールドのジェンセンFF

25年ほど前までは、300 SEL 6.3は安かった。あまり冴えない状態なら、2000ポンドで購入することができた。とはいえ、今回の例のように仕上げるには、小さくない予算と手間が必要になったことも間違いなかった。

もし充分な予算を準備できるなら、今の筆者はジェンセンFFの魅力に抵抗し難い。英国車としての重要性や希少性を、無視することはできないだろう。

協力:SLショップ、ポール・ルイス氏、ジェンセン・オーナーズクラブ

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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