管理職サルーンの象徴 フォード・ゾディアック オースチンA110 ヴォグゾール・クレスタ 前編

公開 : 2023.04.16 07:05

6気筒の2.6Lエンジンはガソリン食い

「売られていたのは、グレートブリテン島の西、サウス・ウェールズ州でした。1952年式のキャンピングトレーラー、バークレーを引っ張るのにピッタリだと思ったんです」。とジョンが笑みを浮かべる。
「車内が広くて快適です。直列6気筒は力強く、とても安楽に運転できます。3速コラムATも気に入っています。フロアシフトより、わたしは断然好きですね」。と彼の息子、ジャック・コングラム氏が話を続ける。

当時はオプションとして、高速巡航用のオーバードライブを指定できたが、必ずしもないと困るわけではなかった。「1人で乗っている限り、ギアに関わらず不満なく加速します。カーブでシフトダウンし忘れても、構わず走ってくれますよ」

ヴォグゾール・クレスタ PB(1962〜1965年/英国仕様)
ヴォグゾール・クレスタ PB(1962〜1965年/英国仕様)

ただし、燃費は好ましくない。「6気筒の2.6Lエンジンは、かなりガソリン食いです。燃料タンクには40Lしか入らないので、頻繁に給油が必要なんです」。ジョンが顔を曇らせる。

「部品も入手が難しくなっていますね。クレスタのオーナーズクラブが、メカニズムで重要な部品を再生産してくれているので助かっています」

座面の高さを調整できるフロントのベンチシートや、ダッシュボード下に用意された外気の送風口など、細かな設計もジョンは評価している。横に長いスピードメーターは、マーカーが緑から赤へ、速度が上昇するにつれて色が変化する。楽しいギミックだ。

ピエトロ・フルアの大胆なスタイリング

同じ頃、英国フォードは少し派手なアメリカン・スタイルのサルーンを売っていた。ゼファー MkIIIシリーズの発表は1962年4月。そのフラグシップとして、ゾディアック MkIIIが投入されている。

当時のキャッチコピーには「完璧なエレガンスとフレッシュさ」「自動車のマイルストーン」といった自信溢れる言葉が並ぶ。「これまで最高級モデルのオーナーが味わっていた、贅沢な自動車旅行を叶える品質」とさえうたっていた。

フォード・ゾディアック MkIII(1962〜1966年/英国仕様)
フォード・ゾディアック MkIII(1962〜1966年/英国仕様)

ゾディアック MkIIIの魅力といえるのが、大胆なスタイリングだろう。ペンを取ったのは、イタリアのカーデザイナー、ピエトロ・フルア氏。さらにカナダ人デザイナーのロイ・ブラウン氏が、コンセプトを量産モデルへ昇華させている。

4灯ヘッドライトが、同社の低価格モデルとは一線を画すフロントマスクを演出。ボンネット内の直列6気筒2.6Lエンジンもゼファー MkIIIよりパワーアップされ、上級のフォードを志向するオーナーを満たした。

英国フォードは6シーターで設計しているが、リアシート側の空間はさほど広くない。荷室容量は大きいが。

ゾディアック MkIIIの装備は、ライバルに劣らず充実。2速ワイパーやシガーソケット、折りたたみ式のアームレスト、時計などが1070ポンドの車両価格に含まれていた。

ただし、A110 ウェストミンスターやクレスタ PBとは異なり、ダッシュボードの装飾パネルはフェイクウッド。シートやドアパネルは、ビニールレザーが標準だった。新しい自動車の時代には人工皮革が適している、と考えたオーナーもいたかもしれない。

この続きは後編にて。

記事に関わった人々

  • 執筆

    アンドリュー・ロバーツ

    Andrew Roberts

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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