同じ出発点 異なる到達点 ランチア・ガンマとシトロエンCX 協力関係が生んだ2台 後編

公開 : 2023.05.21 07:06

160km/hを超えてもたくましいガンマ

CXのエンジンは静かに回る。粘り強く扱いやすい。5速MTはGTi仕様でギア比がクロスしており、キビキビとした加速を引き出せる。

最高出力はCX 2400 GTiの130psに対し、ガンマの142psと、大きな違いはない。だが、最大値に近いトルクを2000rpm付近から発揮する後者の方が明確に活発だ。

ランチア・ガンマ・ベルリーナ(1976〜1983年/英国仕様)
ランチア・ガンマ・ベルリーナ(1976〜1983年/英国仕様)

CXは速度上昇とともに穏やかに転じていくのに対し、ガンマは160km/hを超えてもたくましい。滑らかに回り、高回転域でも息苦しくなる様子はない。フィーリングの良い水平対向4気筒は魅力を生んでいるが、アキレス腱でもあった。

ガンマのクラッチペダルは重く、シフトレバーの動きは曖昧。ギア比は理想的だが、フルードが温まってもゴムのような印象は変わらない。

ステアリングは驚く正確。クイックなレシオで、手のひらへの感触は濃い。カーブを攻めてもタイヤはスキール音を発しにくく、適度なボディロールを伴いながら、アンダーステアは最小限。アルファ・ロメオ・スッドにも似た、落ち着きと機敏さがある。

対するCXは、運転環境と同様にドライバーの順応が必要。ブレーキは鋭く効き、ステアリングのレシオはクイックでセルフセンタリング性が強い。手荒く扱うと、途端に不一致感が出てくる。

グリップ力は高いものの、フロントノーズが重く、カーブでのマナーは魅力的ではない。ダンパーとアンチロールバーが強化された、2400 GTiでも。

高速コーナーではしっとり安定しているものの、タイトコーナーでは全長4666mmという、大きめのボディを実感する。シフトフィールも曖昧だ。

シトロエンへ期待する通りの快適性

高速道路の速度域へ届くと、風切り音やロードノイズはガンマより小さいことへ気が付く。僅かに、洗練性ではCXが勝るといえる。

乗り心地は、低速域でもしなやか。1970年代から1980年のシトロエンへ期待する通り、高級車のような快適性を味わえる。対するガンマは、路面からの入力の影響を受けやすい。

シトロエンCX 2400 GTi(1977〜1984年/欧州仕様)
シトロエンCX 2400 GTi(1977〜1984年/欧州仕様)

ガンマで惜しまれるのは、開発時にランチアのフラッグシップへ何が必要なのか、上層部が整理できていなかったことだろう。より上級なフィアット130に並ぶ存在でもなく、フルビアの直接的な後継モデルというわけでもなかった。

進化を重ねたCXを横目に、ガンマは同カテゴリーでの地位を築くことができなかった。1980年には燃料インジェクション化したシリーズ2へ進化し、ガンマ・クーペも追って登場するが、販売は振るわず。イタリアの税金制度へ対応した、2.0L版も同様だった。

フィアットにとって、ガンマの失敗は大きな痛手にならなかったかもしれないが、合理化されたランチアの進むべき道へ悩んでいた様子が伝わってくる。走りは素晴らしいものの、開発が不充分で、オーナーには小さくない不安を与えた。

フランスでは、CXの魅力を多くの市民が理解していた。スタイリングが似ていたガンマは、ブランドを支えるには頼りないまま、モデルライフを終えたのだった。

協力:HCクラシックス社、リチャード・カープ氏

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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