【連載:清水草一の自動車ラスト・ロマン】#5 カーマニアとして真の勝利!

公開 : 2025.04.18 12:05

自動車はロマンだ! モータージャーナリストであり大乗フェラーリ教開祖の顔を持つ清水草一が『最後の自動車ロマン』をテーマに執筆する、毎週金曜日掲載の連載です。第5回は『カーマニアとして真の勝利!』を語ります。

前オーナーは破産か?

他に誰も入札しないオークションで見事落札に成功し、畿内から坂東へと下向した大貴族号こと、我がマセラティクアトロポルテ。中古マセラティの名店、マイクロ・デポのタコちゃん(岡本和久代表)が、早速各部の点検を実行し、状態を報告してくれた。

「ドアウィンドウは4枚とも正常に開閉し、サンルーフも開閉&チルト動作がきちんとできました。これは奇跡的なことです」

18年落ちイタリア車の後席ドアウィンドウやサンルーフがちゃんと動くのは、奇跡かもしれない!(写真は後席ドアのイメージ)
18年落ちイタリア車の後席ドアウィンドウやサンルーフがちゃんと動くのは、奇跡かもしれない!(写真は後席ドアのイメージ)    マセラティ

そうかぁ、奇跡的なことなのか。考えて見れば、前席ドアウィンドウはともかく(故障するととても不便なので、修理されるケースが多い)、18年落ちイタリア車の後席ドアウィンドウやサンルーフがちゃんと動くのは、奇跡かもしれない。俺、サンルーフって使わないけど、大事にされてたってことだろう、たぶん。

「問題のデュオセレクト(シングルクラッチAT)のクラッチ残量は、85%と出ました。大勝利ではないでしょうか」

ええっ!! 85%?

勝った! 俺は勝った! 人生に勝った!! 開けてみないとわからないオークションという危ない橋を渡って勝利を得た! カーマニアとして真の勝利だ!!

しかも85%! 想像を絶する大勝利! 勝ちすぎと言ってもいい。これじゃ、いつになったらデュオセレクトが死ぬ瞬間に立ち会えるのかわからない。ロマンを愛する冒険家としてはちょっとさみしいが、贅沢すぎる悩みかもしれない。

それにしてもなぜ前オーナーは、クラッチ残量85%なのに手放したのだろう。不思議だ。ひょっとして、ものすごいお金持ちなのか。それとも破産したのか。あるいは急死されたのか。南無。

バラバラのネチョネチョ!

「一方、エンジンアンダーカバーとトランクまわりの樹脂カバーは欠損しております」

ん? それって要るものかな? 「なくていいならいりませんが」と返信したところ、「アンダーカバーは、皆さん、下まわりを打って割っちゃうみたいです。放熱のためには、むしろ好都合だったりします」と、うれしい答えが返ってきた。

大貴族号こと、筆者のマセラティ・クアトロポルテ。対面が楽しみだ。
大貴族号こと、筆者のマセラティ・クアトロポルテ。対面が楽しみだ。    岡本和久

思えば、20年くらい前に取材したランチア・テーマ8.32は、エンジンルーム直下に、オーバーヒート対策のファンが後付けされていた。フェラーリV8の熱を逃がすためには、アンダーカバーなんぞ百害あって一利なし! なくてスッキリ!

「トランクまわりの樹脂カバーは、経年劣化で加水分解してバラバラのネチョネチョになってしまいますので、こっちもないならないでスッキリします」

バラバラのネチョネチョ! バラバラはともかくネチョネチョと聞くと、ちょっと古いイタフラ車の定番、内装ベトベト地獄(内装樹脂表面のラバー塗装が経年劣化で溶ける症状)を思い出す。

ベトベト地獄はフェラーリでも定番で、多くのオーナーを悩ませてきた。中古フェラーリ専門店『コーナーストーンズ』では、中古F355の全盛期、ダッシュボード等のベトベトを剥いで塗装し直す専門の人員がいたほどである。

イタリア・モデナの街に路駐してあったフィアット・ムルティプラのダッシュボードは、ベトベトした表面全面にゴミやホコリが付着して、見るも無残な状態だったが、やっぱりマセラティの内装もベトベトになるのだろうか。

なるのだろう。ならないわけがないだろう。しかしそれについての報告はなく、写真を見てもあまりベトベトしているようには見えないので、ひょっとしたらベトベトしてないのかもしれない。

タコちゃんの報告は以上だった。あとは対面時のお楽しみである。どれほど高貴な大貴族なのだろう、ダッハハハハハハハハ!

(つづく/毎週金曜日昼頃公開予定)

記事に関わった人々

  • 執筆 / 撮影

    清水草一

    Souichi Shimizu

    1962年生まれ。慶応義塾大学卒業後、集英社で編集者して活躍した後、フリーランスのモータージャーナリストに。フェラーリの魅力を広めるべく『大乗フェラーリ教開祖』としても活動し、中古フェラーリを10台以上乗り継いでいる。多くの輸入中古車も乗り継ぎ、現在はプジョー508を所有する。
  • 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

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