コラム&エッセイ

2016.10.25

クルマ漬けの毎日から

永遠に素晴らしいクルマ

Not just building good cars for the moment, but forever

 

 

 
この週末は特別だ。ふたつのコンクール・デレガンスに審査員として招待されているからだ。

今日はブレナム宮殿で、明日はウィンザー城で開催される。日頃、ホイールの隙間の掃除や、泥よけの内側を磨くことを骨の折れる退屈な仕事と思っている私が審査員でよいのだろうかと少々気になったものの、カミさんも私もこのふたつの素晴らしいお城の中をぜひ見たいと思ったので引き受けることにした。

 
今日の任務は、メインの “サロン・プライブ” のコンペティションと並行して行われる “プレステージとパフォーマンス” のコンペティションのいくつかのクラスを審査することだったが、じつに楽しい仕事だった。熱心なオーナーから聞くクルマの話はめったに聞けない話題ばかりで、じつに興味深い。私たちが審査したクラスの優勝者は、ケントに住む二人の男性が共同で所有する美しいジャガーXJ220だった。もしこれほど素晴らしいクルマを所有していたら、私もきっとコンクール・デレガンスに参加するだろうと思った。

 

 
翌日、私たちはウィンザー城にずいぶん早く到着したが、もうすでに審査を受ける1965年以前のベントレーがずらりと豪華に並んでいた。ベントレーに長年勤め、尊敬されているリチャード・チャールズワースもそこにいた。チャールズワースは創業者のW.O.ベントレー時代に製造された古いベントレーをスポーティなスタイルで運転する。かつてレースで活躍していた “ベントレー・ボーイズ” を連想させる運転スタイルだ。チャールズワースはどの分野においてもベントレーのエキスパートである。今日もまた、“家に乗って帰りたいクルマを選ぶ” を私の評価基準としたところ、うまく機能した。私たち審査員が選んだのは1920年代半ばに製造された3リッターの美しい1台だった。最近のコンクール・デレガンスでは、このクルマのようなコンディションが受け入れ始められている。お金をかけて最近オーバーホールされたクルマではなく、長年ずっとよいコンディションで維持されてきたクルマだ。オーナーは幸運だ。

 
この週末に出会ったクルマのなかで私のいちばんのお気に入りは、状態はよさそうだが、手は加えられていない1951年製造のランドローバー・シリーズ1だった。このシリーズ1はオーストラリアから輸入された個体で、ニューサウスウエールズ州北西部にあるバークという町の近くの大牧羊場主、E.N.デービス氏の名前が刻まれたままになっていた。私は子供の頃、バークから比較的近い所に住んでいた。もしかしたら私の父は実際にデービス氏を知っていたかもしれないが、それはさておき、このシリーズ1の塗装はとても美しかった。しかし、まもなくレストアされる予定だと資料に書かれているのを見て残念に思った。本気だろうか?

 
クルマに試乗していると楽しい発見がいくつもあるが、なかでも後継の新型モデルに試乗していて、自動車メーカーが何を修正する必要があると考えているかがわかった時は、じつに楽しい。今日、若々しいイメージの新型ジャガーXFに試乗してまさにそれを体験した。粋な赤のXFには3.0リッターのディーゼルエンジンとATが搭載され、スモークガラスとブラックホイールが装着されていた。新型は、新しいインテリアと乗り心地への配慮がとくに素晴らしい。これまでと同じように軽快で乗り味もスムーズであるが、連続する段差を越える時のノイズが聞こえなくなり、いっそう洗練された。このクラスの最高に近い乗り心地だ。

 
最初のうちは、XFは大きい、いや大きすぎると感じ、そこら中にある縁石にぶつけないように慎重に運転していた。それから、“ジャガーの本質” を理解しているエキスパートで伝説的ドライバー、マイク・クロスのことを思い浮かべた。マイクはほんのわずかなステアリング操作でほとんど芸術的と言えるほどスムーズな運転をする。考え抜いた無駄のないステアリング操作をするのだ。マイクのことを考えているうちに、私の運転するXFも完璧なスタビリティと正確さで、レスポンスよく活気のある走りになってきた。ジャガーをうまく運転するいちばんよいヒントは、マイク・クロスのステアリング操作を思い浮かべることのようだ。

 

 
週末をアウディQ5に乗って過ごし、週明けに仕事に戻った。私は以前、Q5のことをよいクルマだがまったく面白みがないと一度ならず攻撃したことがある。Q5がショールームに展示されるモデルとしての役割を終える日、AUTOCARのようにクルマをキャラクターで評価する者たちがこのクルマをなごり惜しむことはないだろうが、Q5は優良な中古車になるだろう。

とは言え、このクルマにはひとつ興味深い特徴がある。235/60という扁平率が低い、時代遅れのタイヤを履いていることだ。静かで快適な乗り心地には、このタイヤの選択はまったく正しいと思う。アウディに乗ると硬いタイヤから振動を感じることがあるが、このQ5にはそれがない。それに、ステアリングのレスポンスも第1級とまではいかないが、優秀で正確だ。少なくともQ5のこの点は、私の記憶に残るだろう。

 

 
降りしきる雨の中、チェルテナム(英国グロスターシャーの北部)のプレスコット・ヒルクライムへ行き、先日購入したばかりのマツダMX-5(AUTOCARの元テストカー)で初めてレースに参加した。このレースはプレスコットでの今シーズン最後の一戦だった。私はいつも、楽しさとシーズン最後の寂しさが混じったこのイベントを楽しんでいる。今週は多忙だったので、ガレージからクルマを出してボディにゼッケンを貼りつける以外の事前準備は何もできずに会場に向かったが、大会審査員たちが手助けしてくれた。そのうちの一人は、間に合わせのタイミング・ストラット(計測プレート)の取り付けまで手伝ってくれた。そしてスタート前には雨もあがり、晴れ間が少し見えてきた。

MX-5は今日のコンディションには完璧だった。バランスがよく、素直でコントロールしやすく、コーナリングではグリップがよく効き、きびきび走る。だが怖くはない。コースでは、ESPのスイッチはオンのままにしておいた。結果は20台のクラスのなかで4位に入り、V8エンジンの2台より速かった(V8エンジンは、今日のコンディションではコントロールが難しかったのだろう)。初めてヒルクライムに参加してから20年になるが、毎回大いに楽しんでいる。

 

 
今夜はドライブには最適な夜だった。BMWは食事の美味しい高級パブ(ロンドンからヘンリーという街に向かって40kmほど走ったところ)にクラシックBMWを集め、数名のジャーナリストに運転させてくれた。そのなかのベストカーは、戦前に造られた高性能な328だった。328の価格は最近では60万ポンドを超えているが、私がいいと思ったのは、2.3リッター、4気筒の初代M3(E30)だった。超高速サルーンの伝統の始まりに一役買ったモデルであるが、じつはこの個体は特別な一台だ。というのも、a)当時私はまさにこのクルマを運転したことがあるし、b)このクルマを売りたがっていたBMWの財務担当には秘密にして、数年間保管されていたという有名なエピソードがあるからだ。このクルマを内密に保管していたのはBMWの広報責任者だったが、社内の体制が変わり、再びこのM3を人目に触れさせることができるようになった。広報責任者の反逆行為は、今、大いに賞賛されている。

このイベントの特別な喜びは、集まったクルマがどのように経年変化からうまく生き延びているかを確かめられたことだった。それも単純に耐久性だけでなく、今日のドライビングとの関連性という視点で確認できた。私が記憶していた初代M3の素晴らしいステアリングは、今でも優秀だった。エンジンは(記憶していたほどには強力ではなかったが)、スポーティでレスポンスがよかった。30年前に初めて会って取材をした誠実なエンジニアたちは、良質なクルマを単にその時代だけのために造っていたのではなく、結果的に永遠に素晴らしいクルマを造っていたとわかった。このことが何よりも嬉しかった。

translation:Kaoru Kojima(小島 薫)

 


AUTOCAR 英国版 編集長 スティーブ・クロプリー

オフィスの最も古株だが好奇心は誰にも負けない。新しく独特なものなら何でも好きだが、特に最近はとてつもなくエコノミカルなクルマが好き。クルマのテクノロジーは、私が長い時間を掛けて蓄積してきた常識をたったの数年で覆してくる。週が変われば、新たな驚きを与えてくれるのだから、1年後なんて全く読めない。だからこそ、いつまでもフレッシュでいられるのだろう。クルマも私も。