社会人1年目、ポルシェを買う。

2017.02.19

第46話:社会人1年目、吉田 匠さんのポルシェ356に乗る。

チャリーンとiPhoneから音が鳴った。
吉田 匠さんからのメッセージだった。

「今週末あいてる?
 Coppa Di Tokyoに出るんだけれど
 ナビをやってもらえないかと思って」
と書いてある。

反射的に「ぜひ!」とお答えした。

 

 

        ■

ぼくと吉田 匠さんがはじめてお話ししたのは
イギリスのとあるスポーツカーのロケだった。

小さい頃から匠さんの著書を読んでいるから
じっさいに目の前にしたときには
「あ! ほんものだ!」と思ったりした。

その日のロケの終わり、
匠さんは、見ず知らずの若造(ぼく)に
「乗ってく?」と声をかけてくれた。

とあるスポーツカーは、
ワインディングをグイグイと走った。
匠さんはほんとうに楽しそうだった。
楽しんでいるからこそ
ドライブ感ある文章で
数え切れないほどの読者を引き込んできたのだ
と、ぼくは納得した。

        ■

この記事をご覧になっているかたは
おそらく多くがご存知のはずだが、
吉田 匠さんはポルシェ356Bにお乗りだ。

匠さんのオフィスと、AUTOCARのオフィスは
おなじ世田谷区にあるから
首都高の三軒茶屋入り口を勢いよく駆けあがっていく
匠さんの356Bをなんどか目撃したこともある。

 

これがその時の写真。
この写真を撮ったときは匠さんと面識がなく、
「ちょっと遠い世界の有名人」として
あわてて写真を撮ったことを覚えている。

        ■

今回も、そのポルシェ356Bの隣に乗り、
Coppa Di Tokyoに参加することになった。

ぼくの仕事は、コマ図を見ながら
走るべき車線や曲がるべき場所を伝えること。

 

トリップ・メーターをベースに指示をだすため、
ひとつ間違えば、
距離をリセットして、計算し直したり
と、終始ほどよい緊張感があるのが
ラリー・イベントのおもしろさだなと思う。

それも匠さんの、となり。
しかもポルシェ356である。

 

さすがに前日は
うまく眠ることができなかったけれど
名古屋の天野さんのイベントで鍛えた成果もあり
ふだん走ることのない道を盛りこんだ、
絶妙なルート設定を楽しむこともできた。

        ■

ぼくがこれまで助手席で過ごすことができた356は、
笹本編集長の356Aと、匠さんのBの、あわせて2台。

356Aは、およそ60年前のクルマなのに
ふわりとした乗り心地でありながら、
直線をとてつもない速さで走っていたことに
心を奪われたというのは、前に書いたとおり

匠さんの356Bは、クーペであることも影響して、
全体的な ‘かたまり感’ が強く感じられた。
それでも乗り心地はあくまでしなやか。
シート(というより椅子)もふんわりしていて、
まったくもって苦痛に感じることはなかった。

しなやかさのなかにコシがあるのも気もちがよかった。
「フロントのスタビライザーを強化したことと、
リアにキャンバー・レギュレーターを入れたんだよ」
と嬉しそうに教えてくれた。
ダンパーは前後ともにKONI Classicに交換済みとのことだ。

550ミラーや5.5Jの純正のワイド・リム(後輪)、
38cmのナルディから交換した
35.5cmのモトリタ製の
フラット・リムのステアリングなど
こだわりは細部におよぶ。
「ほどよいレーシーさと、
 日常でも走らせられる快適性のバランスが
 ぼくは好きなんだ」と匠さんは目を細めていた。

ズロロン! と威勢のいい音がするのは、
エア・クリーナーとマフラーを換えているから。
75psを生みだす1.6ℓの空冷フラット4じたいは
ノーマルなのだそうだ。

モディファイをやりすぎない程度にとどめておくのは
自制心が必要だということは、
シャカイチ読者の皆さまもおわかりだと思う。

匠さんの356Bは、そのへんがかなり絶妙だ。

匠さんは356Bもグイグイ走らせていたけど、
「まだまだぜんぜん平気ですよ」と言わんばかりに
356Bは、日曜日のまだ寒い東京を喜々として走った。

 

        ■

匠さんと別れたあとに、
ぼくの996のカバーをはぐって、走らせてみた。

356みたいに、勇ましい音がしないし、
クラッチ・ペダルを浮かせればスルスルと進んだ。

これまで3回参加した天野さんのラリーと、
ポルシェ356クラブのツーリング
そして今回の「Coppa Di Tokyo」を経て、
ぼくは996がいかに安楽なクルマであるかを感じた。

2台の356ともに助手席に乗っただけなのに
まるで一緒になって運転しているかのような、
乗ったあとの ‘達成感’ があるからだろうか。

もちろん996は飛ばせば、すこぶる楽しいし、
エンジンが回ると、逞しい音に転じる。
356とちがって、コンビニに行くだけのために
走らせることだってままあるくらい快適だけど
それを優れたクルマというよりも、
ふつうに乗れるクルマだと捉えはじめているみたいだ。
どうやら。

※今回も最後までご覧になってくださり、
 ありがとうございます。
 
 996って、とってもいいクルマなんですけどね!
 車検が近づいていて、ちょっと気もちが
 重くなっているのかもしれません。

 今後とも、[email protected] まで、
 皆さまの声をお聞かせください。
 もちろん、なんでもないメールだって
 お待ちしております。

記事に関わった人々

  • 上野太朗

    Taro Ueno

    1991年生まれ。親が買ってくれた玩具はミニカー、ゲームはレース系、書籍は自動車関連、週末は父のサーキット走行のタイム計測というエリート・コース(?)を歩む。学生時代はボルボ940→アルファ・スパイダー(916)→トヨタ86→アルファ156→マツダ・ロードスター(NC)→VWゴルフGTIにありったけのお金を溶かす。ある日突然、編集長から「遊びにこない?」の電話。現職に至る。
 
 

おすすめ記事