【現役デザイナーの眼:アウディQ6 e-トロン】BEV時代、本当の『アウディらしさとは?』

公開 : 2025.04.02 07:05

トレンドの先端を行くヘッドライトと、やや違和感のあるグリル周り

次にフロントデザインですが、従来のアウディ車に比べ最も大きな変化は、DRL(デイタイムランニングライト)とヘッドライト本体を分離させたデザインです。前回の記事(【現役デザイナーの眼:デザイン手法】ブレイクスルーを起こしたクルマ3選)でも書きましたが、これは近年のトレンドとなっており、アウディもこの手法を採用しました。この構成によってデザインの自由度が格段に増すので、全体の顔つきが大きく変えられます。 

さらに、この車のDRLには無数のLEDが仕込まれており、光るパターンを変えることでユーザーが様々な表情を選択できる仕組みになっています。これは『クルマの顔を個々のユーザーがカスタマイズできる』という新しい体験を提供するものであり、まさに現代的なデザインアプローチと言えると思います。

全体的に強くてボリューミーな造形に対して、グリルの枠やパターンが華奢な印象がある。このように白のボディ色だとグリルも白であり、やや浮いて見える。
全体的に強くてボリューミーな造形に対して、グリルの枠やパターンが華奢な印象がある。このように白のボディ色だとグリルも白であり、やや浮いて見える。    アウディ

一方で、グリル周りのデザインには若干の違和感を覚えます。ボディ全体がボリューム感のある面構成であるのに対し、グリル部分は枠やグリルパターンに華奢な印象を受けます。

さらに、グリル内部がボディと同色の仕様になっているため、特に白などの明るいボディカラーではグリルの存在感が強調されすぎてしまうという懸念もあります。このあたりは、アウディの『洗練さ』を強調するために、もう少しバランスを取る余地があるかもしれません。

リアデザインに関しては、一見すると、とてもアウディらしいバランスですが、サイドから見るとリアコンビネーションランプを頂点とする『くの字型』のシルエットが特徴的です。これまでのアウディのSUVと比べると、よりスポーティで躍動感のある表現となっており、デザインの進化を感じます。

本当の『アウディらしさ』とは何か? 今後のデザインに期待したいこと

アウディのホームページを見ると、デザインのこだわりとして『タイムレスな美しさ』という文言があり、シンプルであることを徹底的にこだわり続けている、としています。確かにアウディは一般的にも、メルセデス・ベンツBMWと比較して、よりスマートで先進的なブランドイメージだろうと思います。

歴史を遡ると、特に90年代後半からのアウディは、初代『TT』でバウハウス的なミニマルデザインを打ち出し、その後のカーデザインのトレンドを作り出しました。あの時代のアウディは、まさに『タイムレスな美しさ』であると同時に、カーデザイン界に一石を投じた『時代の先端』のデザインだったと思います。

スタンスの良い、アウディらしいリアビュー。ただアウディへの期待値は高く、さらに新しい価値の提案を期待したい。
スタンスの良い、アウディらしいリアビュー。ただアウディへの期待値は高く、さらに新しい価値の提案を期待したい。    アウディ

しかし、近年のアウディは高級志向をより強める一方で、繊細なディテールが多くなり、情報量が増えすぎた印象があります。これは大元になるデザイン(スタイリングコンセプトや、立体構成、面表情など)がかなり保守的なので、その反動だと考えます。

今回のQ6 e-トロンも、BEVという新時代のクルマでありながら、デザイン自体は比較的保守的な印象を受けます。アウディはこれまで、前述の通り『プロポーションの課題』を克服しようとしてきましたが、その先にある『新しいアウディらしさ』を打ち出すことが今後の課題なのかもしれません。

ただ、自動車デザインというものは、100年以上の歴史で培われてきた価値観を尊重しながら、新しい提案を生み出す難しさがあります。特にプレミアムブランドほど、そのバランスは慎重に取らなければなりません。しかし、新たな高級車像をアウディなら表現出来ると感じているのです。電動化時代のアウディに、今後の進化を期待したいと思います。

記事に関わった人々

  • 執筆

    渕野健太郎

    Kentaro Fuchino

    プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間に様々な車をデザインする中で、車と社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

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