【現役デザイナーの眼:アウディQ6 e-トロン】BEV時代、本当の『アウディらしさとは?』

公開 : 2025.04.02 07:05

現役プロダクトデザイナーの渕野健太郎が、先頃日本で発売されたばかりのアウディQ6 e-トロンを、実際にあらゆる角度からチェック。BEV時代のSUVデザインと、今後のアウディの可能性について解説します。

BEVならではのプロポーションとアウディらしさの表現

アウディの新型BEV『Q6 e-トロン』が日本で発売されました。

これまでアウディは、ドイツにおけるプレミアムブランドの中でも独自のポジションを築いてきたと思います。皆さんご承知の通り、パッケージにしてもメルセデス・ベンツBMWが『FRベース』を基本にしているのに対し、アウディはエンジンが前輪軸より前にある『FFベース』を軸にしてきました。そこには常に『高級車らしいプロポーション』という課題がつきまとっていましたが、電動化によってその制約が取り払われつつあります。

ホイールベースが長く、フロント・オーバーハングが短いパッケージにより、伸びやかかつ引き締まった印象のサイドビュー。
ホイールベースが長く、フロント・オーバーハングが短いパッケージにより、伸びやかかつ引き締まった印象のサイドビュー。    アウディ

まず、そのプロポーションからですが、アウディの内燃機関車と比較すると、フロント・オーバーハングが短縮され、長いホイールベースも相まって、FR車のような伸びやかな印象を生み出しています。この変化は、電動化によるパッケージングの自由度の高さを活かしたものであり、アウディにとって重要な進化ポイントのひとつです。

とは言うものの、比較的傾斜の強いAピラーにより、そこまでボンネットの長さを強調していません。そこから、他のアウディ車との関連性も考慮し、従来のプロポーションを『最適化した』という印象を持ちました。メルセデスやBMWとは違う、アウディ独自の個性を表現すると言う意思を感じます。

SUVでありながら下部の黒いクラッディング類が廃された結果、ボディ全体が分厚く、ソリッドな印象を受けます。これは重量感や高級感を演出する狙いでしょう。ただし、その分、ボリュームが強調されることで『重たく見える』という意見も出るかもしれません。

一方、タイヤは大径で、かつトレッドも幅広く、アウディらしい『しっかりとしたスタンス』は健在です。ドア下部のライトキャッチが通常よりも高い位置にあることが特徴的で、Q6 e-トロンのデザインにおける最大の個性と言えると思います。

また、フェンダー部には『クワトロ・ブリスター』と呼ばれる、4WDを視覚的に表現するデザインが採用されています。今回のQ6 e-トロンでは、通常のフェンダーにブリスター風の意匠を後付けしたような構成になっています。この点に関しては、少し『ビジーに見える』という印象を受けるかもしれません。実際、新型のA5やQ5ではよりスムーズなデザインが採用されているため、将来的にもう少しシンプルな表現へと移行するのだと思います。

記事に関わった人々

  • 執筆

    渕野健太郎

    Kentaro Fuchino

    プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間に様々な車をデザインする中で、車と社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

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