570GTにとって、渋滞は苦痛？　天国？

われわれは小さな橋を渡り、港を望む砂利敷きの駐車場に乗り入れた。多くのスーパーカーの腹を擦ってきた痕がそこかしこにあるが、フロントの車高調整機構を標準装備する570GTはそれに煩わされず、また、570Sより静かなエキゾーストは、朝の穏やかな空気を乱さずに済んだ。

とはいえ、パブリック・スペースで撮影する場合、スーパーカーはなにかと面倒だ。その派手なルックスと盛大なノイズでギャラリーを呼び寄せてしまったり、絶望的な視界や取り回しで地元の人々の往来を妨げてしまったりすることも少なくない。

たとえ排気音が多少小さくて、ボディ・カラーが地味だったとしても、周囲の注目をかいくぐるのは、ありふれたハッチバックやエステートほど簡単ではない。

絵になる風景を求めて、われわれはスリンブライアン・ダムを目指したが、不幸にも570GTのナビは扱いづらく、目的地までは他の2台と隊列を組むことを余儀なくされた。しかも、引率するカケットのゴルフはペースが遅く、加えて途中でガソリンが底を尽きそうになる始末。片側1車線の道をただただ流す羽目に陥った。

ふだんならば、マクラーレンにとってこんな走りは、理想的なテストからは程遠いだろう。しかし570Sよりスプリングもダンパーも15％ソフトで、ステアリングはロック・トゥ・ロックが2回転から2.5回転へややスローになっているため、ドライブは平穏で快適だ。

これよりずっとふわついた乗り心地で、運転を楽しめないだろうEクラスに対して、570GTは荒れた路面でもはるかにスムース。ボディ・コントロールも落ち着いていた。

しかもエンジンやトランスミッションはもちろん、ステアリングやブレーキもすばらしい。キャビンのスペースも、脱いだジャケットを置ける程度にはあるとなれば、これ以上を望むのは贅沢というものだ。

辿り着いたダムは、水域面積こそ湖水地方の平均に及ばないが、設置された発電所のエネルギー供給量はスーパーカー1台など足元にも及ばない。

しかし撮影を終えてテスト走行を再開するにあたり、乗り換えたくなくなるほど、570GTは不満のないクルマであった。