担架が載るだけのシンプルなワゴン ポンティアック・メンフィアン救急車(1) 増えた車重を支える新型V8エンジン

公開 : 2026.09.26 17:45

1950年代の北米で活躍した、コーチビルダーによるメンフィアン救急車。実際は担架を積めるシンプルなワゴンでした。ベースはV8エンジンのポンティアックです。UK編集部が貴重な1台をご紹介します。

1950年代の北米で活況にあったコンバージョン市場

霊柩車や花屋の配送ワゴンなど、働くクルマへ仕立てるコンバージョン市場は、1940年代から1960年代のアメリカで活況にあった。命を救う救急車も、その1つだ。

眩しく光るパトライトに、甲高く鳴るサイレン。サイドガラスは不透明に加工され、ボディは路上で目立つように派手な色で染められた。往年のアメリカン・ホームドラマへ登場した姿は、筆者の記憶に今も残っている。

ポンティアック・メンフィアン救急車(1955年式/北米仕様)
ポンティアック・メンフィアン救急車(1955年式/北米仕様)    パヴェル・リトウィンスキ(Pawel Litwinski)

ジェームズ・ディーン氏の事故現場へ駆けつけた救急車は、病院へ搬送する途中で事故を起こしたが、それは1952年か54年式のビュイック・フレキシブル。狙撃されたジョン F ケネディ大統領を搬送したのは、コーチビルドのポンティアック・ボンネビルだ。

その頃は、霊柩車を兼務する救急車も珍しくなかった。2車種を維持するのが難しい小さな町では、コンビネーションカーと呼ばれ重宝がられたそうだ。

ストレッチャーを載せられるシンプルなワゴン

1970年代の初頭まで、アメリカの救急車はストレッチャーを載せられる、シンプルなワゴンといえた。商用バンを改造した例もあったが、クロームメッキで飾られた、ロング&ワイドなフルサイズの乗用車がベースになる場合が多かった。

フロントバンパーからフロントガラス部分までボディが組まれ、パワートレインが載ったローリングシャシーを、コーチビルダーはメーカーから購入していた。サスペンションが強化され、ライトやサイレンに備えて、電装系も容量が増やされた状態で。

ポンティアック・メンフィアン救急車(1955年式/北米仕様)
ポンティアック・メンフィアン救急車(1955年式/北米仕様)    パヴェル・リトウィンスキ(Pawel Litwinski)

ビュイックやパッカード、フォード、クライスラーなど、ベースモデルは様々。約300mmから600mm、職人の手でホイールベースが延長されることが通常だったが、ロングシャシーを注文できたキャデラックも支持率は高かった。

代表的なコーチビルダーは、ミラー・ミーティア社やセイヤーズ&スコヴィル社、ナショナル・コーチ社など。増える車重に備えて強力なV8エンジンが少なくなく、トランスミッションは出始めのオートマティックではなく、3速マニュアルが一般的だった。

主要コーチビルダーの1つがメンフィスに

大手だったミラー・ミーティア社は、センチネルやボランティアといった、頼れそうなモデル名を冠した救急車シリーズを提供。ウイリス社は、オリジナルのジープをベースにした四輪駆動の救急車を生産していた。

今回取り上げるメンフィス・コーチ社も、主要コーチビルダーの1つ。アメリカ中東部、テネシー州メンフィスに拠点を置き、メンフィアンというモデル名を掲げた救急車シリーズを展開している。ポンティアック・スターチーフなどをコンバージョンして。

ポンティアック・メンフィアン救急車(1955年式/北米仕様)
ポンティアック・メンフィアン救急車(1955年式/北米仕様)    パヴェル・リトウィンスキ(Pawel Litwinski)

同社にとって重顧客といえたのがアメリカ軍で、大きな利益をもたらした。彼らのモデルで希少な1台といえるのが、フルサイズ4ドアサルーンのエドセル・コルセアをベースにした、軍隊仕様でハイルーフの救急車だろう。

ドアとリアサイドのパネルは、12インチ(約305mm)延長。サイドウインドウは平面ガラスで、リアコーナー・ウインドウをオプションで指定できた。ドアに溶接されたステンレス製のアッパーフレームが特徴で、ルーフはFRP製ではなくスチール製だった。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    中嶋けんじ

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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