ランボルギーニ・ミウラSVで「ミニミニ大作戦」の舞台めぐる 

公開 : 2017.07.09 11:10  更新 : 2017.07.09 11:48

あくまでクールにハンドルを握ろう

キッドストンの運転は、印象的なまでに滑らかで落ち着いており、次のトンネルに備え、いかしたサングラスを外す以外、右手をハンドルから離すことはない。

大型トラックに警告するためにヘッドライトを点滅させ、ミウラが閃光のように走り抜けることを知らせるためにエアホーンを定期的に鳴らす。

390psのSVは、高速では安心かつフラットに感じられ、初期のP400について批判の多かったノーズリフトの兆しさえない。

高速回転するV12の奏でる壮大な交響曲に聞き惚れ、官能的なフロントウィングに映るネオン灯が流れるように過ぎていくのに見とれている間、キッドストンは静かに運転に集中し、最後の力強い加速のためにアクセルを踏む。

すぐにアオスタの標識を一瞬で抜き去り、E25号線から外れ、アルタンヴァズ川に沿って走るE27号線を上り、峠を目指す。


アルプスのメッカであるアオスタから、サイント・オイエンに近い壮観な高架橋までの上り坂は、道幅が広く、路面が良好で、待避所も多いため、進みが速い。筆者はゴールドのSVの運転席に戻り、2台による高速走行をもう一度楽しむ。

やはり、ミウラの重量配分、レース・スタイルの配置、そして重心の低さが相まって、印象的なハンドリングだ。高速コーナーを抜ける時のSVは最高にバランスが良く、幅広のピレリが流れる気配すらない。

グリップがしっかりしており、何よりもパワーバンドの全域で均一かつ力強く、ひたすら上昇していく出力特性は、高速運転を維持するのに最適だ。

低速ではサスペンションが路面の凸凹を拾うものの、スピードを上げるにつれて乗り心地が滑らかになり、しなやかで洗練されてくる。

サイント・オイエンで旧道に入り、オリジナルの冒頭のシーンを探すためにコーナーで何度かクルマを停めた。南の方角を望むと高架橋がはっきりと視認できる。

そこで、キッドストンがUターンし、あのシーンを再現するために弾丸のように疾走する。V12はルマン・プロトタイプのような音をさせ、爆音とともにヘアピンからヘアピンへと走るが、間もなく高架橋の上に出た。

単にロケーションが正しいかどうかを確認するためだが、ノートPCを取り出してDVDを差し込む。橋のバリアが高くなり、パイロンがないものの、この場所に間違いない。


流れの速い渓流、青々と繁る牧草地、そして日陰の多い林は、スクリーンの中を走り抜けるオレンジ色のP400とともに流れるクインシー・ジョーンズ作曲の催眠的効果とぴったりだ。

狭いルートに入ると、2台のランボルギーニはウインドウを下げペースを落とす。古風な河川橋を渡り、見事な眺望を堪能するために最初のヘアピンで停車する。

この山中にある楽園まで精力的にクルマを飛ばした後、ここで車外に出て、澄んだ空気を吸い、キッドストンのノートPCで映画の冒頭のシーンを再度再生するのは最高の気分だ。

この旅行を計画している間に、全てのロケ地について地図と突き合わせて詳細に解説している素晴らしいウェブサイトに出会った。

ベッカーマンとミウラが山岳道路を高速で走る、どこか夢を見ているようなシーンを撮影したのは、英国の有名な撮影監督、ダグラス・スローカムだった。

スローカムの業績は実に印象的であり、失明するまでの間に、イーリング・コメディから『レイダース・失われたアーク』に至る数々の作品を手がけた。


スローカムには、『The Titfield Thunderbolt』に出てくる蒸気機関車であれ、『ブルー・マックス』の第一次世界大戦における劇的な空中戦であれ、アルプスを走るミウラであれ、映画に登場する機械を美しく描き出す才能があった。『ザ・イタリアンジョブ』冒頭のシーンを注意して見れば、レトロなサングラスをかけ、タバコを吸いながらハンドルを握っている男優ロッサノ・ブラッツィが、かなり慎重に運転していることがわかる。

また、ブラッツィがほとんどシフト操作をしていないことから、シーンの一部を早回ししているのが明らかだ。ルートの上の方でペースを維持するためには、本来であれば、2速から3速に素早くシフトする必要があった。

だが、ブラッツィが、この気むずかしい5段トランスミッションを実際にかまっていたら、あのクールな態度を到底維持できなかっただろう。

道は、我々が休憩した谷底から松林を通る急な上り坂になった。路面が荒れており、補修工事作業が登坂を妨げる。しかし、一時はトンネルに向かう新道の下を通っていた歴史のある旧道は、岩だらけの峰とうねうねと登るタールマックで再舗装した道につながっている。

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