V型12気筒エンジン、なぜ魅力的なのか 近づく惜別のとき 理由を探る

公開 : 2019.07.20 18:50  更新 : 2019.07.20 19:11

まるでオーケストラ もっとも純粋

そして、S65には9速ものギアなど必要ないのであり、7速も不要かも知れず、おそらく3速もあれば十分だろう。このロングストローク型エンジンの滑らかさには特筆すべきものがあり、なんの苦もなく前へと進んで行く様子は、まるで電気モーターのようだが、EVが苦し気な様子を見せ始めるような速度に達すると、威風堂々としたS65の違った一面が姿を現す。

エンジンサウンドとともに、なによりもV12がその存在を主張し始めるが、それは決して最高の6気筒エンジンが奏でるような咆哮や、クロスプレーン式V8の轟くようなものではなく、そのサウンドを表現するには、あまりにもお決まり過ぎて、いまでは陳腐に聞こえるようフレーズを使うしかない。

つまり、V12のサウンドとはまさに音楽であり、オーケストラの奏でるようなそのサウンドに、ひとびとは酔いしれるのだ。

確かに、V8ほどエキサイティングではないかも知れない。だが、多くのひとびとにとって、ベートーベンはビートルズほど刺激的ではないかも知れないが、どちらも歴史に名を遺す存在であることに変わりはない。

V型12気筒とは、もっとも純粋で、もっとも素晴らしく、もっとも見事なサウンドを奏でる、最高のエンジン形式だと信じている。どれだけ欠陥が多く、つまらないクルマであっても、そのエンジンルームにV12が収まっていれば、それだけで非常に興味深い存在となる。

わたしにも、V12に残された日々がどれほどあるのか分からないが、それほど長くはないはずだ。だが、本当にV12が失われる前に、もう少しこの最高のエンジンを楽しみたいと思っている。

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