【ミドV8にマネッティーノ】トゥーリング・スーパーレッジェーラ・アレーゼRH95へ試乗 前編

公開 : 2021.10.01 08:25  更新 : 2021.10.14 16:06

イタリアのカロッツエリア、トゥーリング・スーパーレッジェーラ社が生み出した、V8ミドシップのスーパーカー、アレーゼRH95へ英国編集部が試乗しました。

シザーズドアのシリアスな高性能マシン

執筆:Richard Bremner(リチャード・ブレンナー)
撮影:Luc Lacey(リュク・レーシー)
翻訳:Kenji Nakajima(中嶋健治)

 
「EJECT(緊急脱出)」と記されたボタンは、日常でも引きたくない。実際に押す場面は、緊急事態の航空機に乗っている時くらいだろう。

トゥーリング・スーパーレッジェーラ・アレーゼRH95にも、そう記されたハンドルがドアにある。この場合も、あまり押したくはない。素晴らしいクルマとの旅が、終わりを告げることになるからだ。

トゥーリング・スーパーレッジェーラ・アレーゼRH95(欧州仕様)
トゥーリング・スーパーレッジェーラ・アレーゼRH95(欧州仕様)

アレーゼRH95との旅は、美しいカーボンファイバー製ボディに包まれた、670psのスリルと喜びに満ちた時間。華やかなシザーズドアと、彫刻的なボディ後半のドーサルスクープが、期待させる通りに。

クルマの操作系へ、洒落た名称が与えられている。それに気付くだけでも楽しい。同時に、アレーゼRH95は、相当にシリアスなパフォーマンス・マシンでもある。細部に至るまで見事なフィニッシュからも、その事実を感じ取れる。

カーボンファイバー製ボディは、極めて美しく造形してある。ガラスのように表面は滑らか。普段は目にすることがない、その内側も。

リアヒンジのクラムシェル・エンジンリッドを開けば、マットブラックで仕上げられた裏面に、誇り高きカロッツエリアらしい丁寧さを確かめられる。優れた職人は、見えない部分にも手は抜かない。

ボディを観察していくと、フェンダーやドアを横断するシルバーのラインは、削り出されたアルミニウムだとわかる。ドアやバンパーなどのカットライン、すべての三次曲面、ライトやエアインテークまで、隙なくデザインされている。

大きなカーボンファイバー製パネルも、寸分の狂いがない。思わず見入ってしまう。

言葉を失う美しいインテリア

インテリアにも言葉を失う。オーナーによってコーディネートされた内装は、ベージュとブラウンのアルカンターラで仕立てられている。黄色の糸で繊細に施されたステッチが、コーディネートを引き締めている。

シートの座面に施された繊細なステッチ・パターンは、翼を広げたトゥーリング・スーパーレッジェーラ社のロゴがモチーフ。ベージュやイエローの組み合わせと聞くと、雰囲気に疑問を感じるかもしれないが、写真をご覧いただければ理解できるだろう。

トゥーリング・スーパーレッジェーラ・アレーゼRH95(欧州仕様)
トゥーリング・スーパーレッジェーラ・アレーゼRH95(欧州仕様)

左右で別れた構造のコクピットに、上品な色合いの素材が展開されている。非常にエレガントで、座っているだけで豊かな気持ちになる。さらに、躍動的な走りが待っているのだから、笑みを抑えることは難しい。

果たして、突然現れたアレーゼRH95がどんなクルマなのか、トゥーリング・スーパーレッジェーラ社がどんな組織なのか、疑問に思う読者も多いだろう。恐らくこのカロッツエリア名をご存知なのは、ご年配か、相当な自動車ファンに限られると思う。

トゥーリング・スーパーレッジェーラ社の起源は、1926年に創業したコーチビルダー。当初はカロッツエリア・トゥーリング社として、カルロ・フェリーチェ・ビアンキ・アンデルローニ氏がミラノに立ち上げている。

ほどなく、コンクール・イベントで彼の手掛けたモデルは高い評判を獲得。アルファ・ロメオやイゾッタ・フラスキーニ、ランチアBMWなど、多くのブランドがカロッツエリア・トゥーリング社へデザインを依頼した。

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・ブレンナー

    Richard Bremner

    英国編集部
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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