ゲームが自動車業界に革命を呼ぶ! Unreal Engineを活用する自動車メーカー メタバースの到来

公開 : 2021.11.02 18:25

昨今の自動車業界では、新型車の開発から宣伝、販売に至るまで、ゲーム用ソフトウェアの導入が進んでいます。

クルマの世界を変えるかもしれない「Unreal Engine」

2つの世界が融合すれば、現状が大きく変化するのは当然のこと。「メタバース」が到来すると、自動車業界でも劇的な変化が起きるだろう。それがいつ起こるかは誰にもわからないが、ソフトウェア業界の関係者は、そう遠くないうちに起こると確信している。

「メタバース」とは、フィジカル・リアリティ(物理的な現実)、オーグメンテッド・リアリティ(AR)、バーチャル・リアリティ(VR)の3つが一体となったもので、ある程度はすでに到来していると言える。人々が仮想のアバターを介して対話し、現実と仮想の世界がミックスされるのだ。

Unreal Engineを用いたBMWの映像制作の様子
Unreal Engineを用いたBMWの映像制作の様子

メタバースを実現する鍵の1つは、ゲーム開発などを手掛けるEpic Games社が開発したゲーム用エンジン、Unreal Engineだ。事業開発責任者であるダグ・ウォルフ氏によると、同エンジンを使用した世界最大級のオンラインゲーム「Fortnite(フォートナイト)」では、世界中から3億5000万人から4億人のプレイヤーがオンライン環境で交流していると推定されるという。

ウォルフ氏は、次のように語っている。

「わたし達は以前から、インターネットが3D化して永続的なデジタル世界となるメタバースが実現すると考えてきました。サイバー空間に入るという古い言い回しが現実のものとなり、それが急速に進んでいるのです」

「ビデオゲームを作ることで知られているツールが、このような形で関係しているという考えは新しく、人々に理解してもらうには時間がかかりました。1つはこの革命が起きていること、もう1つは自動車メーカーが注目する必要があるということです」

開発者の思い描く風景を再現できる3D技術

オンラインゲームの開発者が、カーデザイナーやエンジニア、マーケッターと交代することで、ゲームソフトは新型車を作るためのツールとなり、その使いやすさから圧倒的な力を発揮する。一部の高度な状況を除いて、デザイナーやエンジニアは、自分が想像するものを形にするのにプログラマーを必要としない。

この方法は実践的で、共有も簡単だ。ウォルフ氏は、製品やブランドをリアルタイムのデジタル3Dで表現することが、企業の標準的なプレゼンテーション方法になりつつあると主張する。例えば、オンラインで利用できる自動車メーカーのカーコンフィギュレーターのほとんどは3Dになっている。

フォルクスワーゲンID.4の広告制作風景
フォルクスワーゲンID.4の広告制作風景

「CAD(コンピュータ支援設計)における3Dは20年以上前からありましたが、まだまだクレイモデリング(粘土による実物大の模型)の方が重視されていましたね。コンピューターから実際に消費されるものへの変換は、大きな距離がありました」

「人々は、購入したり、作業したり、製品のライフサイクルを通して関わったりするものの3D表現を見たいと思っています。自動車業界にとっては、マーケッターの使用するツールが、デザイナーやエンジニアが使用するツールと同じであり、またクルマのヒューマン・マシン・インターフェース(HMI)を支えるツールと同じであることを意味します」

ウォルフ氏はこの概念を、本物の「デジタルツイン」であり「信頼できる唯一の情報源」と表現し、さらに3Dデータを保存する場所を、いくつもの「サイロ」から1つのデジタルな場所に移すものだと述べている。ある企業が、まだ存在しないクルマを紹介する映像を作ろうとしたとき、必要なのはUnreal Engineの開発範囲内で使用できる3Dの「アセット」だけで、映像制作者が好きなようにレンダリングすることができる。

これまでは、3Dの壁を背景に映像を撮影すると、視差(視聴者の視点から見た物体のずれ)が感じられなかったが、ゲームエンジンを使うことでそれが解消される。

この技術は、テレビシリーズ「The Mandalorian」が制作されているドイツ・ミュンヘンのハイパーボール・スタジオで撮影された、フォルクスワーゲンID.4の広告にも使われた。巨大なLEDの壁により、3D背景セットをリアルタイムに生成するだけでなく、実際の場所と同じように本物の「照明」と「反射」を生み出す。

Unreal Engineは、ダイムラーでも使用されている。クラウド(ローカルに設置されたサーバーではなく、インターネットを介してアクセスされるサーバー)を介して分散された低コストのコンピューティングを使用して、デザイナーやエンジニアが世界各地の拠点でVRモデルを共有できるようにしている。

ウォルフ氏によると、ダイムラーではこの新しい手法を「エンジニア向けのマルチプレイヤー・オンラインゲーム」と呼んでいるという。CADデータとマルチユーザーのゲーム環境のパワーを可能な限りシンプルな方法で統合しているのが特徴だ。BMWも、ビジュアライゼーション戦略の中心としてUnreal Engineを使用している。

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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