デ・トマソ時代のヴィンテージ マセラティ・シャマル 誤解されたクーペ 後編

公開 : 2022.03.05 07:06

グランドツアラーとしての上質さに感心

6速MTは、メカニカルな質感が手に心地良い。ゲートはやや曖昧だが、動きは滑らかだ。ターボのブースト圧が低い状態では、シャマルはとても従順に走る。

1基目のターボは、2500rpm前後で圧力を生み出し始める。さらに2基目が、遅れて圧力を高めていく。シャマルは攻撃的なサウンドを放ち始める。パワーは回転数と徐々に高まり、過去のV6ツインターボほど野蛮ではない。

マセラティ・シャマル(1990〜1996年/欧州仕様)
マセラティ・シャマル(1990〜1996年/欧州仕様)

トルクも太い。3000rpmから最大トルクが発生し、6500rpmまで引っ張る必要性はあまりない。それでも回す楽しさがある。タービンの高音が響き、ウェイストゲートがひと吹き。硬質さが増していくエンジンサウンドも聴き応えがある。

当時のカタログによれば、シャマルは0-97km/h加速を約5秒でこなし、最高速度は270km/hに到達したという。3速でも太いトルクがリアタイヤを打ち負かし、ドライな路面でホイールスピンする。

なにより、グランドツアラーとしての上質さに感心する。6速なら、1000rpm当たり46km/hというギア比が与えられている。

傷んだアスファルトを通過しても、モノコックがきしむことはない。余計な振動が残ることもない。マセラティの貴重なヴィンテージ・モデルと呼びたくなる。濡れた路面では、少し様相が異なるとは思うが。

ステアリングのロックトゥロックは、約3回転。レシオはクイックだが、フィーリングはリニアではないようだ。

シャマルには、コニ社製の調整式ダンパーが組まれている。減衰力の変更は、シフトレバー付近に配された、ブラウン管時代のTVリモコンのようなキーパッドで行う。

長く誤解されてきたマセラティ・シャマル

乗り心地は、最も柔らかい設定を選んでも硬め。それでも、スポーツ・モードで背骨が痛くなるような、現代のグランドツアラーよりは遥かにしなやかだ。

ABSなど電子的なアシストはないが、サーボが補強してくれるブレーキペダルの踏みごたえは良好。ヒヤリとすることもなく、スピードを落としてくれる。

マセラティ・シャマル(1990〜1996年/欧州仕様)
マセラティ・シャマル(1990〜1996年/欧州仕様)

コーナリング時は、ノーズの重さを感じさせない。リアよりも太いアンチロールバーがフロントに組まれ、ボディロールは適度に抑え込まれている。

旋回時の振る舞いはとても好ましい。カウンターステアを目一杯当てて走るタイプではないし、それで幸せを感じるオーナーもいなかっただろう。少なくともドライ路面では、シャマルという響きからイメージするような気難しさはないようだ。

「思わず夢中になるような、アンダーステアとは無縁の楽しみ。サーキットを激しく攻め込むタイプではありません。長距離を一気にこなす、グランドツアラーのようなクルマ」。という新車時の評価に納得する。

艶深いレザーが、装飾の少ない車内を覆う。3スポークのモモ社製ステアリングホイールで、意欲的に操れる。

マセラティ・シャマルは、長く誤解されてきたクルマだ。不安定だったブランドのイメージと重ねるように、過度にネガティブに。

デ・トマソ時代に生み出されたシャマルは、ガチガチに固められ、ボディが載せ替えられたビトゥルボではない。卓越した仕上がりではないかもしれない。だが、強く心を打つ力を備えていた。

強力:アンディ・ヘイウッド氏

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・ヘーゼルタイン

    Richard Heseltine

    英国編集部ライター
  • 撮影

    オルガン・コーダル

    Olgun Kordal

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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