日産GT-R NISMO

公開 : 2014.06.30 23:50  更新 : 2021.03.05 18:51

■どんなクルマ?

£125,000(1,851万円)のプライス・タグを掲げるGT-R NISMOについてどこから説明すればいいのだろう。というのはつまり、良きメタファーを用いても、あるいは魅力的な数値を並べても、物理的な説明をもってしても、このクルマの溢れんばかりの魅力を語り尽くすことができないからである。なにはともあれ、レビューを始めるとしよう。

誇張なしに素晴らしいGT-R NISMOは、2007年のデビューから既に7年が経過したGT-Rと基本的な骨格を分け合う。7年前のことは鮮明に覚えているのは、筆者自身が日本に出向き試乗をしたからでもあるし、また英国に帰ってからも事あるたびにGT-Rに乗る機会に恵まれたからだ。

NISMOバージョンを動力性能の観点から見ると、スタンダード版と比較してほんのわずか程度どころか、全方向が飛躍的に性能が向上している。今回はサーキットと一般道の両方でテストを試みたのだが、最初から最後までずっと私の頭は混乱状態にあったといえる。

何がそんなに新しいのか。それは一言では語り尽くせない。3.8ℓV6ツインターボ・エンジンはブースト圧の変更を受け、通常の560psのGT-Rからは£47,000(696万円)分の価格差をつけており、最終的な最高出力は599ps、最大トルクは66.5kgmとなる。

ただしエンジンには、金額や開発時間だけの尺度では語り尽くせない魅力がある。エンジニアは紛れも無くニュルブルクリンクでのラップ・タイム向上のみに力を注ぎ込んだのだ。もう一度書くが、ニュルのラップ・タイムのためだけに、サスペンションや駆動系、タイヤやエアロダイナミクスに改良を加えたのである。

サスペンションはあなたの期待通りの改良が施されている。スプリング・レートは高められ、大型化された(中身は空洞なので従来品より軽い)スタビライザーに変更されている。また飛びきり複雑な機構のビルシュタイン製ダンパーが備わり、ダンロップ製の特注ハイグリップ・タイヤを履く。もっともこのタイヤは冷えた路面では力を発揮することは難しいが、路面が暖まった時には、灼熱の車内に置き忘れたグミくらいの柔らかさになり、その結果アスファルトへの食いつきは更に力を増す。確かにグリップの類ではあるのだけれど、もしくはそれ以上の食いつきなのだ。

このクルマを運転した時に明確に感じるのは、フロント(ダブルウイッシュボーン)とリア(マルチリンク)のサスペンションのジオメトリーが変化したことだ。フロントには新たなリンクが与えれ、リアのハブには変更は施された事により、新しい接着技術のおかげで更に剛性を増したボディと相まって、更に攻撃的になったのである。

あなたが好む、好まざるに関わらず(筆者は個人的には素敵だと思うが、周囲の人もそう思うかどうかは自信がない)、新たなボディ・パーツが組み合わされる。ただし仮にこのデザインを受け入れがたいと思う人でさえ、ひとたびコースに駆り出せばNISMO製のスカートやスポイラーがどれほどのダウン・フォースに寄与しているかをすぐに感じ取ることができるはずだ。

日産曰く160km/h以上で100kg分のダウン・フォースが増しているそうだ。ただしこの数字を見ずとも、100km/h前後のタイトなコーナーが続くコースでさえ、強く地面に押し付けられていることを感じられるだろう。

■どんな感じ?

通常のGT-Rとの大きな差を感じることができるのは、コーナーのターン・イン時である。特にリアに施されたサスペンションの改良を顕著に感じることができる。鼻先の焦点をコーナーの峰に合わせ、直線的にコーナーを抜け出す際には、NISMO版のほうがさらに高い速度域で走り抜けることができるし、リアもドライバーが意図するよりも早いタイミングで追従してくるのだ。

常にニュートラルであることは加点したいポイント。ただし、クルマ自身が欲しているかのように強いアンダー・ステアの傾向があるところは減点対象となる。

キャドウェルパーク周辺を走行すると、やはりどのタイミングでも1700kgの車重から容易く想像できる’大きさ’を感じられた。しかしながら同時に、標準のGT-Rや同価格帯のライバルに比べて敏捷性に優れ、生き生きとしているようにも感じられるのだ。

直進性能やブレーキ性能、さらに正確性やグリップが増しているゆえに、コーナーというコーナーでホイールが空転し、心臓の鼓動を更に速め、脳をクタクタにさせるだけでなく、ドライバーとクルマが一体になっているように感じることができる。サーキットに近いこのコースでは、生々しくも魅力的な、そして抑えの効かないスリルを与えてくれるのだ。そして結果的にはあなた自身が息を切らしてクルマから降りてくることになるはずだ。

ただし、一般道では話は別だ。結論から記すと、これ以上にないほどの敏感で、最下級に神経質なのである。ガラスの表面のようにスムーズな路面でない限りステアリングは常に落ち着かない。それもノーマルに比べてかなりの度合いで、である。また電子ダンパーをコンフォートにしても、他に例を見ないほどにカチコチの乗り心地なのだ。したがって、GT-R NISMOは、晴れた日にスムーズな路面で走らせるだけの玩具として所有するのが一番妥当かもしれない。

ロータスエキシージのように週末の走行会まで待ちつづけ、あるいは我慢しながら日常使用をする必要があるクルマだと言える。ただし、悲しいかなGT-Rは日常で使える最上級スーパーカーという立ち位置だけに、何とも皮肉な結果となってしまった。

■「買い」か?

多様なカーボン製パーツが奢られ、サポート性が高まったシートを備えているにも関わらず内装は7年前から大きく進化していないだけに、GT-R NISMOの価格が妥当かどうかを判断するのは困難を極める。ただし、これから2、3年の間にGT-Rを購入する人の多くは、これらの欠点を気にすることはないだろう。

なぜなら、それらの欠点よりも長所の方が彼らにとっては重要だからである。GT-R NISMOは、6分08秒という常軌を逸したラップ・タイムでニュルブルクリンクを駆け抜けるのだから。

(スティーブ・サトクリフ)

日産GT-R NISMO

価格 £125,000(2,160万円)
最高速度 310km/h
0-100km/h加速 2.6秒
燃費 8.5km/ℓ
CO2排出量 275g/km
乾燥重量 1720kg
エンジン V型6気筒3799ccツインターボ
最高出力 600ps/6800rpm
最大トルク 66.5kg-m/3200-5800rpm
ギアボックス 6速デュアル・クラッチ

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