回生ブレーキはなぜ「イイ」のか? 捨てた運動エネルギーを取り戻す電動車のお得感

公開 : 2023.03.06 18:25

多くの電動車に搭載されている回生ブレーキシステム。従来なら失われてしまうはずの運動エネルギーを取り戻すという、電動車ならではの効率的なシステムですが、どのような仕組みなのでしょうか。

失ったエネルギーを取り戻す好循環

自動車業界で使われるフレーズの中で、特に印象に残るものがある。

例えば「好循環(virtuous circle)」は、「悪循環」と対象的なポジティブな言葉であると同時に、何かを得られる満足感を示唆する言葉でもある。

ポルシェ・タイカン・ターボSは強力な回生ブレーキを搭載している。
ポルシェタイカン・ターボSは強力な回生ブレーキを搭載している。    ポルシェ

このフレーズは、自動車において経済性や効率性を語る際によく使われてきたが、電動車の普及とともに「軽量化」と並んで突然一般的な用語として使われるようになった。

重量を減らすと、消費する燃料の量が減り、その結果、排出される汚染物質の量も減る。燃料を運ぶ量が減るので、重量が減り、より多くの燃料を節約することができる。車両の運動エネルギーが減少すると、ブレーキを小さくすることができるため、さらに重量が軽くなる。こうして循環は続いていく。

電動車、特に完全なBEVでは、回生ブレーキによるエネルギー回収は「好循環」ではないかもしれないが、有徳であり、循環である。

適切に設計された回生システムなら、減速時にかなりの量のエネルギーを回収でき、一部の車種ではその量がリアルタイムでメーターディスプレイに表示される。それは、ドライバーが支払った運動エネルギーであり、一般的な内燃機関車では捨てられてしまうものだ。

そのため、乗っているドライバーは意識しないかもしれないが、回生ブレーキは電動車の重要な要素であり、自動車メーカーにとっては悪いことでも良いことでもある。摩擦ブレーキから回生ブレーキへの移行は、消費者に伝わりづらいセールスポイントだからだ。

回生ブレーキは主に2つの要素で構成されている。1つ目は、アクセルから足を離すと起こるもので、エンジンブレーキのように車両を減速させるが、同時に未使用のエネルギーを回収する。

もう1つは、ブレーキペダルを踏んだときに起こるものだ。摩擦ブレーキと回生ブレーキを、ドライバーに気づかれることなくシームレスに融合する必要がある。

ポルシェは、回生ブレーキを効果的に使うことで、バッテリーの重量に対応するための大きな摩擦ブレーキが必要ないとしている。ポルシェのEV、タイカンは、日常的な走行の90%で回生ブレーキを使用している。モータージェネレーターが大きな制動力を発揮できない場合、また高速走行中にドライバーが強くブレーキをかけた場合に摩擦ブレーキが作動する。

タイカン・ターボSは、減速時になんと290kWの電気エネルギーを発生させることができる。このレベルであれば、2秒間のブレーキングで700m走行するのに十分なエネルギーを回収できる。

2つのブレーキの間で齟齬が生じないようにスムーズに制御するのは、油圧システムを監視するアルゴリズムだ。エネルギー回生が行われるたびに、ブレーキペダルは再調整され、制動力に対する移動量を計算する。こうすることで、次のブレーキ操作の際に油圧システムがどの程度の制動力を出す必要があるかを割り出す。

多くの電動車に共通する、目に見えない循環型エネルギープロセスである。何かを無償で得られるわけではないが、とても「お得感」があるのだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    平成4年生まれ。テレビゲームで自動車の運転を覚えた名古屋人。ひょんなことから脱サラし、自動車メディアで翻訳記事を書くことに。無鉄砲にも令和5年から【自動車ライター】を名乗る。「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。イチゴとトマトとイクラが大好物。

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