史上最大のモーリス:アイシス・トラベラー タクシーで活躍:600 ムルティプラ お国柄丸出しワゴン(1)
公開 : 2025.06.01 17:45
ミニバンやSUVが人気を得る前から作られてきた、6名以上で移動できるクルマ 実用性と上質さを両立した車内 型破りなほど個性的なボディ 熱烈なファンを生んだ特徴 UK編集部が5台を振り返る
モーリス史上最大のモーリス
ミニバンやSUVが人気を集めるずっと前から、6名以上で移動できるクルマに各メーカーは取り組んできた。今回集めた5台は、姿カタチは大きく異なるものの、いずれも入念にパッケージングが練られ、際立つ個性が与えられている。
最も古株となるのは、モノクロ映画から飛び出してきたような、モーリス・アイシス・トラベラー。全長4489mmと大きくはないボディに、最大8名が乗車できるとうたわれた。当時の同社にとって、ステーションワゴンの理想像だったといえる。

1.5L直列4気筒「Bシリーズ」エンジンのモーリス・オックスフォード・シリーズIIが登場したのは、1954年。1955年に、2.6L直列6気筒のアイシス・トラベラーが追加されている。「モーリス史上最大のモーリス」というキャッチコピーとともに。
直6の「Cシリーズ」エンジンを搭載するため、ボンネットは延長。当時のAUTOCARは、「現代的でも、見せびらかす要素はゼロ」だと、好意的に伝えた。イタリアンな華やかさとは、無縁といえた。
荷室へ備わる3列目のフォールディングシート
モーリス・マイナーのステーションワゴン、トラベラーと同様に、トリネコ木材とアルミニウム製パネルで、ドアより後方のボディを形成。郊外で暮らす実用性重視の人でも、積極的に都心部へ向かえる手段になった。出張先での、臨時オフィスにもなった。
新車時の価格は957ポンドと、4ドアのライバル、スタンダード社のヴァンガード・エステートより高額。しかし、アイシス・トラベラーには他のモデルにはない、3列目のフォールディングシートが荷室へ備わった。

ところが、販売は振るわず。同じブリティッシュ・モーター・コーポレーション(BMC)傘下の競合、オースチンA90 ウェストミンスターを超えることはなく、1958年に生産は終了している。
今回ご登場願った1台は、モーリスの第一人者、ハミルトン夫妻がオーナー。1956年式で、クラレンドン・グレイのボディが非常に美しい。
実用性と上質さを巧みに両立した車内
アイシス・トラベラーは2ドアで、2列目への乗降性は褒めにくい。パンフレットでは、「腕周りや膝周りに充分な空間がある」と主張されたが、実際に座れるのは小柄な大人まで。3列目は、テールゲートから入り後ろ向きに座るスタイルだ。
インテリアは、実用性と上質さを巧みに両立。バーガンディのレザーシートから、蒸気船から拝借したようなメーター類まで、デザインの魅力は尽きない。

ハミルトンのクルマは初期型のシリーズIで、トランスミッションはコラムシフトの4速マニュアル。1956年のシリーズIIでは、運転席の右側から長いレバーが伸びる、フロアシフトへ変更された。
発進させると、87psを生むCシリーズ・エンジンのノイズが車内へ充満する。ゆったりとした走りで、俳優のレスリー・フィリップス氏が登場するような、コメディ映画へ紛れた気分を味わえる。