お国柄丸出しワゴン(2) 満員でも粘り強く登る:サーブ95 熱烈なファンを構築:シトロエンDS
公開 : 2025.06.01 17:47
ミニバンやSUVが人気を得る前から作られてきた、6名以上で移動できるクルマ 実用性と上質さを両立した車内 型破りなほど個性的なボディ 熱烈なファンを生んだ特徴 UK編集部が5台を振り返る
50km/hでも、200km/hで疾走する感覚
フィアット600 ムルティプラへ初めて乗ると、フロントアクスル直上のシートポジションと、膝前で膨らんだヘッドライト裏のパネル、むき出しのスペアタイヤなどに驚ける。発進させれば、スピード感にもっと驚く。
メーター上は50km/h程度でも、200km/hで疾走している感覚。767ccのエンジンはまったくパワフルではないが、濃い個性へ強く誘惑されてしまう。

ステアリングコラムは、ユニバーサルジョイントで丁度いい角度へ伸びる。フロントシートはスライドできず、背もたれを限定的に調整できるだけだが。リアシートは狭くない。家族や友人を乗せられ、ペットもその後ろに陣取れる。
こんな600 ムルティプラより、馴染みやすい存在といえたのが、スウェーデンからやってきたステーションワゴン、サーブ95。もっとも、保守的で選択肢が豊富な英国人にとっては、平均的なドライバーが選ぶモデルではなかった。
前時代的な容姿 英国車にはない高級感
1960年代には、95のスタイリングは前時代的になっていた。コラムシフトの4速MTも、現代的な装備ではなかった。1233ポンドという価格は、ヴォグゾール・ヴィヴァやフォード・エスコート XLワゴンより100ポンド前後高かった。
反面、95には同クラスの英国車にはない高級感があった。荷室は潰れるが、後ろ向きに座る3列目のシートも備わった。今回のアンバー・イエローの1台は、クリス・ボフィー氏がオーナー。1972年式で、今でも目を引くフォルムといえる。

95の発表は、1959年5月。サルーンのサーブ96より、9か月早かった。英国での販売は1960年に始まり、1964年からは安全性へ配慮したデュアルサーキット・ブレーキと、ロングノーズを採用。1969年には、フロントグリルも更新された。
エンジンは、当初0.8L直列3気筒の2ストロークで、1967年に1.5L V型4気筒のフォード・ユニットへアップデート。北米仕様には、1.7L版が用意されている。
オールドファッションでも才能は豊か
ボフィーの1972年式は、テールゲート上のスポイラーやインテリアまで、1959年式と見た目に大きな違いはない。パンフレットでは、「ボディのカタチやカラーに惑わされないで。流行は、多くの人を惑わせます」という忠告文で訴求されていた。
車内空間は、仲が悪くなければ大人7名が乗車可能。サイドウインドウの曇りを防ぐ送風口や、誤操作の防止へ配慮されたヘッドライト・スイッチまで、ドライバーはディティールを楽しめる。

ペダルは、中央側にオフセット。ステアリングコラムから、長いシフトレバーが突き出ているが、慣れれば意外と操作しやすい。低域からトルクフルで、満員でも坂道を粘り強く登る。エンジンは1発で始動し、オーナーからの信頼は厚かった。
1972年の自動車雑誌、CAR誌は「オールドファッションでも才能は豊か」だと評価。95の生産は1978年まで続き、機敏で安全にサーブで行こう、という同社のキャッチコピーは、ブランドファンから支持された。