0-400mダッシュ命(1) 10秒で勝敗が決るドラッグレース 心を躍らせる爆速マシンたち

公開 : 2025.05.31 17:45

英国へドラッグレースが輸入されて60年 10秒足らずで勝敗が決る一発勝負 サンタポッド・レースウェイで開かれた記念イベント 心が躍るような爆速マシン9台をUK編集部がご紹介

10秒足らずで勝敗が決るドラッグレース

バーンナウト・エリアへ、マシンを静かに進める。ブレーキラインをロックし、フロントタイヤを固定。アクセルペダルが踏み込まれ、V8エンジンがとどろくと、ドーナツのようなフージャー・タイヤから白煙が吹き出す。

表面のゴムが程よく溶けたら、スタートシグナル、通称「クリスマスツリー」の立つプレステージ・エリアへ前進。スタートラインで、ツリーの頂上にある2灯のイエロー・シグナルを待つ。リミッターを効かせ、エンジンの回転数を3000rpmに合わせる。

2024年7月に英国のサンタポッド・レースウェイで開かれた、ドラッグスタルジアの様子
2024年7月に英国のサンタポッド・レースウェイで開かれた、ドラッグスタルジアの様子    ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

オレンジのカウントダウン・シグナルが3灯光り、グリーンも点灯したらスタート。6500rpmまで回転は跳ね上がり、フロントタイヤは宙に浮く。お構いなしにシフトアップ。400m先のゴールラインを通過する頃には、220km/hに達している。

準備は入念だが、1レースの所要時間は10秒足らず。これで勝敗が決る。

戦後にスリルを求めたアメリカ人

ドラッグレースといえばアメリカが本場だが、英国にも夢中な人は多い。公道を走れる改造範囲に限定される、「ノスタルジア・スーパーストック」より上のクラスでは、ドラッグスターやファニーカーと呼ばれる、過激なマシンもしのぎを削っている。

2024年7月5日から2日間開催された「ドラッグスタルジア」は、英国におけるドラッグレース60周年を記念したイベント。グレートブリテン島中部、サンタポッド・レースウェイが会場になった。2025年も、7月下旬に予定されている。

2024年7月に英国のサンタポッド・レースウェイで開かれた、ドラッグスタルジアの様子
2024年7月に英国のサンタポッド・レースウェイで開かれた、ドラッグスタルジアの様子    ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

第二次大戦後、スリルを求めたアメリカの若者は、カリフォルニア州のモハーベ砂漠やユタ州のボンネビル・ソルトフラッツで速さを競った。1950年代初頭には、ドラッグレース専用コースが出現。それから10年後に、英国へも上陸している。

全米ホットロッド協会の協力で、英国初のドラッグレース・フェスティバルが開かれたのは1964年。欧州初のドラッグレース・コース、サンタポッド・レースウェイもこの時に誕生した。今回は、心が躍るような爆速マシンを、オーナーとともにご紹介したい。

アラード・クライスラー・ドラッグスター

オーナー:ロイド・アラード氏、ギャビン・アラード氏

古いドラッグスターの運転席ほど、刺激的な場所は多くない。第二次大戦の戦闘機譲りだというステアリングヨークがドライバーの正面にあり、両足は大きなデフをまたぐ。マフラーのテールパイプは、耳から数10cmという距離だ。

アラード・クライスラー・ドラッグスター
アラード・クライスラー・ドラッグスター    ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

薄い金属製のボディは、一応ある。「かつての英国でレーシングカーを作るには、ロイヤル・オートモービル・クラブ(RAC)の規則へ従う必要がありました。ドラッグスターは存在せず、実質的にはサーキット用の派生版、スプリントカーといえました」

「ブレーキとエンジンカバーも必要でした。本場、カリフォルニアのライバルには、どちらもなかったのに」。と、ギャビン・アラードが説明するドラッグスターは、英国のドラッグレースを牽引したアラード社で作られた。

1961年と1962年のレースを戦い、数々のトロフィーを勝ち取っている。「メタノール燃料なら、エンジンは500psを発揮しますよ」。彼の祖父は、60年前に欧州へドラッグレースを持ち込んだ1人。「沢山の人が集まっていて、今でもイベントは盛況ですね」

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 撮影

    ジャック・ハリソン

    JACK HARRISON

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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