電動サルーンの「新基準」 フォルクスワーゲンID.7へ試乗 286psで約600kmを実現

公開 : 2023.11.27 19:05  更新 : 2023.11.27 21:08

狙い通りの優れた操縦性 乗り心地も快適

ID.7は長距離移動が想定されているだけに、シートは素晴らしい。試乗車にはオプションのエルゴアクティブ・シートが組まれていたが、本当に快適だった。柔らかくしっかり体を支えてくれ、ヒーターとベンチレーションが備わる。ベロア生地も心地良い。

走行フィーリングは、フォルクスワーゲンのMEBに共通する。0-100km/h加速を6.5秒でこなす、286psをしっかり引き出せる。

フォルクスワーゲンID.7 プロ(欧州仕様)
フォルクスワーゲンID.7 プロ(欧州仕様)

回生ブレーキの制御は滑らかだが、惰性走行やワンペダルドライブには対応しない。Dではエンジンブレーキのような減速が得られ、Bではシフトダウンした時のように少し強くなる程度だ。ペダルの感触が少し人工的ながら、ブレーキは漸進的に利く。

ステアリングレシオは可変式で、反応はダイレクト。シャシーマウントには新しいラバーのブッシュが用いられ、従来以上に振動を遮断する。アダプティブダンパーは、ホイールの動きに応じて適した減衰力を発揮。硬さ自体も、15段階から調整できる。

フォルクスワーゲンは、より優れた操縦性を狙ったと想像できるが、その結果が表れている。ライバルと比べても、優秀といえるほど。ただし、同社最高の仕上がりにまでは達していないが。

乗り心地も快適。ダンパーをソフト側へ振れば極めてマイルドになる。ただし、強い衝撃を受けると若干上下動が大きくなり、浮遊感も伴う。ハード側へ振ると、姿勢制御が見違えて引き締まる。

他のモデルを評価する指標になり得る

全体的な操縦性はニュートラルで、高速コーナーでも姿勢はフラット。スポーツ・モードではスタビリティ・コントロールの特性も変化し、後輪駆動らしい反応を楽しめる。

だが、濡れた路面ではパワーを余す場面も。タイヤはグリップ力に長けたブリヂストン・ポテンザ・スポーツを履くが、雨が降るフランスのロータリー交差点での立ち上がりでは、トラクション・コントロールがなだめていた。

フォルクスワーゲンID.7 プロ(欧州仕様)
フォルクスワーゲンID.7 プロ(欧州仕様)

ステアリングホイールは、フォルクスワーゲンとしては重め。感触も薄い。可変式ではないダンパーに固定レシオのステアリングが組み合わされたID.7なら、印象は違うかもしれない。

電費は、高速道路から市街地、峠道まで交えて、平均で5.8km/kWh。77kWhの駆動用バッテリーの場合、現実的な航続距離は450km前後と考えられる。驚くほど足が長いわけではないものの、クラストップの能力といえる。

果たして、ID.7にはキラリと輝く特長が欠けているかもしれない。それでも、良く練られた仕上がりにある。i4ほどの完成度ではないとはいえ、車内は遥かに広く価格はお手頃。モデル3のように、淡白な白物家電的な印象もない。

オリジナルのゴルフのような、話題はさらえないかもしれない。だがフォルクスワーゲンらしく、他のモデルを評価する時の指標になり得る仕上がり、といえるだろう。

◯:広々とした車内 従来のID.モデルより向上したインテリア 優れた航続距離
△:高めの価格 内装の品質と車載機能の使い勝手 ブランドの水準へは届いていない乗り心地と操縦性、外界との隔離性

フォルクスワーゲンID.7 プロ(欧州仕様)のスペック

英国価格:5万5570ポンド(約1005万円)
全長:4961mm
全幅:1862mm
全高:1538mm
最高速度:180km/h
0-100km/h加速:6.5秒
航続距離:603-621km
電費:6.1-7.0km/kWh
CO2排出量:−
車両重量:2172kg
パワートレイン:AC同期モーター
バッテリー:77.0kWh(実容量)
急速充電能力:170kW
最高出力:286ps
最大トルク:55.4kg-m
ギアボックス:1速リダクション(後輪駆動)

記事に関わった人々

  • 執筆

    イリヤ・バプラート

    Illya Verpraet

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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