クルマ漬けの毎日から

2016.04.23

フラット4:足りない褒め言葉

Struggling to deploy ever more superlative superlatives

 
友人がアウディR8を買い、私に30分ほど運転させてくれて以来、R8を新たな目で見ている。なんていいクルマだろう。友人のR8は2008年モデルで、総走行距離5万mile(約8万km)、420bhpのV8エンジンだ。彼は価格交渉の末、4万ポンド弱でこのクルマを手に入れた。販売店の広告に載っていた価格は4万2千950ポンドだったので、仕事の後で私と会った時、友人は自分の交渉術を自慢していた。

 
R8がどれほど楽しくて運転しやすく、フェラーリのようなゲートのギヤチェンジがどれほど楽しいかを私は忘れていた。このクルマをよく見かけるのも不思議ではない。もしV8を手に入れたとしたら、私はきっと満足するだろう。なにしろ最高速は290km/hを超えるし、0-96km/h加速は4.4秒なのだから。5.2ℓのV10もあるが、0-96km/h加速を0.6秒短縮するために1万ポンドも余分に払うのは、賢い投資とは言えないだろう。V8のR8の最高に素晴らしいところは、耐久性と弾丸を通さないほどの頑丈さだと感じた。運転していてとても快適だった。

 
手帳を見返していた時、今年3月のジュネーブショーでいちばん楽しかった取材のメモが目に留まった。それは、ロールス・ロイスのトップ、トルステン・ミュラー・エトヴェシュに20分間インタビューした時のものだった。私はこの時、開発がかなり進んでいるはずの新型8代目ファントム(2018年モデル)の詳細をいくつか彼から聞き出そうとしていた。ロールスはまだファントムVIIを軸にビジネスを行っているため(とくに、マカオのホテル経営者で大富豪のスティーブン・ハンから30台一括受注していることもあり)、ミュラー・エトヴェシュは8代目についてうっかり口を滑らせることはなかった。だが、新型のスタイリングは、現行モデルが2003年に登場した時ほど衝撃的ではないらしい。それに、優雅さが強調されるようだ。

 
この取材で、私はミュラー・エトヴェシュに今後どのくらい長く現在の職に就いているつもりですかと質問してみた。というのも、ドイツ人がマネージメントをしている会社では、トップの人事異動がよく行われるからだ(ロールス・ロイスのような会社ではマネージメントの継続性がとても重要であるし、現在のトップは極めてよい仕事をしているので、これは残念な慣習だ)。彼は異動の可能性はゼロではないと言った後で、熱い口調でこう続けた。「ロールス・ロイスは素晴らしい会社です。その舵取りをして行くことは、今でも私にとって理想の仕事だと思っています。それにロールス・ロイスに本当に必要なことが何なのかを学ぶのに2年以上かかりました。だから、この会社を離れるつもりはまったくありませんよ」 いいニュースだ。

 

 
ご存知の方もいらっしゃるだろうが、TVRは新しい工場をウェールズのエブベールに建設する見込みだ。新工場はこの先誕生する “サーキット・オブ・ウェールズ” のすぐ近くになるようだ。このニュースを聞いて、私たちは大いに喜んだ。その建設予定地が、AUTOCAR編集部(英国版)が長年クルマのテストやロケを行ってきた素晴らしい景色の場所からすぐ近くだということもあり、喜びはいっそう大きかった。カメラマンのスタン・パーピオやルーク・レーシーがAUTOCARのために素晴らしいショットを撮っている場所は、いったいどこだろうと思う人がいるかもしれないが、そのロケ地はエブベールである可能性が高い。それに、前回お伝えしたように、アストン・マーティンが新型DBXの生産工場をウェールズ南部のセント・アサンに建設すると発表したこともあり、TVRはじつにふさわしい場所を選定したと言えるだろう。そこならTVRの新工場からクルマで南へ1時間ほどで辿りつけるのだから(アストンやTVRで飛ばせば、わずか40分で到着するだろう)。

TVRはアストンの敷地を共同使用すると伝えたメディアがあったが、AUTOCARがTVRの新工場のニュースを発信したことで、その憶測は否定された。とはいえ、以前、TVRのトップ、レス・エドガーと話をしていた時、最近アストンの経営陣と会い、両社の関心事を話し合ったとエドガーがふと口にしたことがあった。これを聞いた時、私はなるほどと思った。この二つの会社は、価格帯では直接のライバルになりそうもない上に、両社とも生産関連全般、法規法令、サプライヤー、ファイナンス、海外の競争相手といった点で似たような課題にチャレンジしているからだ。英国ブランド同士のちょっとした団結があったとしても、大いに納得がいく。

 

 
ポルシェ、フェラーリ、マクラーレンは、すでにモデルレンジの最高峰のハイパーカーを製造し、販売した。さらに、これらのハイパーカーの性能を超えるクルマが登場するまでには、あと10年かかるとも発言した。この状況を考えると、最近アストン・マーティンがエイドリアン・ニューウェイと協力して、他のハイパーカーを打ち負かすロードカーの製造を発表したのは、最高のタイミングだと言っていい。

だが、私がぜひとも知りたいのは、P1、ラ フェラーリ、918スパイダーを蹴散らすほど素晴らしいパフォーマンスのクルマを手なずけることのできるオーナーはいったいどんな人なのかだ。というのは、アストンのマシンが負かそうとしているのは、F1やLMPのマシンを運転する人たち、つまりF1やル・マンのレベルのドライバーだからだ。太った億万長者ではない。

 

 
日産リーフであちこち走り回ってみると、クルマを走らせるのにはどれほどエネルギーがいるかということをあらためて認識する。それに、クルマはどのモードで運転するかによってどれほどパワーの消費量が異なるかという点についても、認識をあらたにする。

リーフを市街地で運転するのは楽しい。発進が素早く、静かで、非常にスムーズで全般的に運転が楽だ。また、重量配分は通常のFFモデルよりノーズが軽いので、乗り心地も縦揺れがなくて快適である。私がそうなのだが、もし市街地でトルクの波に乗って走るだけで楽しいと思えるのなら、航続可能距離はゆっくりとカウントダウンしていくので、坂を下る時や減速する時にエネルギーを回収することにますます熱心になる。

 
だが高速道路では、まったく異なる。もし時速100km/h以上で巡航、またさらに悪いのは “普通” のクルマの後ろについて行こうとすれば、航続可能距離は不安になるほど激減していく。向かい風の時には、状況はさらに悪くなる。すべてマネージメントの問題だろう。リーフのベテランドライバーは、解決策を心得ているようだ(彼らに出会う場所は、決まって高速道路の充電スタンドだ)。だが私はまだ、冷静に対処できる心理状態を手に入れようとしている段階だ。

 

 
信用できる自動車メディア(AUTOCARも含め)が、4気筒水平対向エンジンの新型ポルシェ718ボクスターのことを決して大げさでも感情的でもなくレポートしているのは実に興味深い。というのも、私が最初に運転したポルシェは4気筒の水平対向だったからだ(それは356スーパー90。いったいなぜ、あのクルマを買わなかったのだろう?)。それにスバルの強力で独特なサウンドの4気筒水平対向を神様が授けた小さな奇跡だと信じてもいる。

ところで、今回の新型4気筒水平対向エンジンで意見が分かれるのは、スロットルレスポンスとサウンドのようだ。レスポンスについては30%の人が、サウンドについては70%の人が好意的な評価をしていない。だが、このことを1年後に振り返る人はまずいないだろう(中古車市場では6気筒水平対向の需要は上昇中とコメントされているけれど)。それに、自動車ジャーナリストがポルシェのモデルの進化に疑問を示しているのは、よい変化だとも思う。新型ポルシェのレポートを書いているとひどく疲れることがあるが、それは何とかしてこれまでで最高の褒め言葉をひねり出そうと悪戦苦闘するからだろう。

translation:Kaoru Kojima(小島 薫)



 
 

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