ソフトウェア定義型自動車の「発明者」に会う 業界変革と今後の展望 米ソナタスCEO
公開 : 2025.01.23 06:05
ソフトウェア定義型自動車(SDV)はどのように登場したのか? そして今後の展開は? この分野をリードする米ソナタスのジェフリー・チョウCEOに話を聞いた。
SDV技術 メーカーの課題に対応
「自惚れになるが、我々は『ソフトウェア定義型自動車(software-defined vehicle)』という言葉を発明したと言わせてもらうよ」と、米ソナタス(Sonatus)のジェフリー・チョウCEOは笑いながら言う。
必ずしも事実とは言えない。この言葉が使われたケースは1970年代にも確認できる。しかし、ソフトウェアエンジニアであり、複数のIT系新興企業の創業者でもあるチョウ氏は、現在進行中の変化を最初に認識する立場にあった。

ソフトウェア定義型自動車はコンピューターシステムを中心に設計され、無線によるアップデートやアップグレード、車内決済、高度な人工知能(AI)搭載を可能にする自動車のこと。英語の頭文字を取ってSDVとも呼ばれる。開発が進むにつれ、IT業界も自動車分野への進出を始めている。
米ラスベガスで開催された今年の技術見本市CESでは、アマゾン、LG、ソニーなど自動車関連企業が多数参加したほか、NVIDIAは会場近くのホテルに専用ブースを設けた。
自動車業界に参入する際に、従業員やアプローチをIT業界から持ち込んだ企業も数多くあった。ソナタスもその1社であり、チョウ氏はこの市場には新規参入企業にとって大きなチャンスがあると語る。
「ソフトウェア定義の技術は、IT業界のデータセンターから生まれたものだ。メディア、金融、小売、その他あらゆる業界を変革してきたのと同じ価値提案が、自動車業界でも行われている。つまり、これは必然的な流れだ。あらゆる業界に変革をもたらすだろう」
これはチョウ氏が自身のキャリアから得た知見である。同氏は、シスコなどの業界大手に買収された多数のIT系新興企業の設立や勤務経験を持つ。そして、自動車業界がソフトウェア主導の破壊的変化に適した時期にあると判断したことが、彼とビジネスパートナーのユー・フェン氏が2018年にソナタスを設立した理由である。
「シスコにいたころ、我々は初のソフトウェア定義型ネットワークスイッチを構築した。当社が提供するものの多くは、以前から目にしてきたものだ」
「ソフトウェア定義型サービスを可能にする重要な技術の1つが接続性だ。データセンターと同様で、1990年代後半に始まり、オーケストレーション・プラットフォームとネットワークに火をつけた。進化の過程を見れば、クルマにも同じことが起こる。ドミノ倒しで最後に倒れたドミノだ」
カリフォルニア州に拠点を置くソナタスは、車内機能やシステムの構築からクラウドベースやセキュリティサービスまで、幅広いサービスと分野をカバーする一連の自動車向けソフトウェアを開発している。すべては顧客のニーズに合わせてカスタマイズ可能だ。現在、同社では約250名が働いている。
CESでは、開発中のソフトウェアソリューションの数々をフォード・ブロンコのEVプロトタイプで披露し、その中には、顔認識技術を利用して家族のひとりひとりに合わせてシート設定や走行モードを調整するというものもあった。さらに、乗車する人ごとに異なる設定を適用できるアプリのデモも行った。
ただし、いずれのサービスも「ソナタス」ブランドとして一般に提供されることはなさそうだ。自動車メーカーはシステム全体を手中に収めたいと考えている。このことを認識した上で、同社はメーカーが抱える特定の課題の解決に焦点を当ててきた。
「当社の最初の数世代の製品は、IT業界で構築した技術を自動車業界向けに適応させたものが多かった。どこから着手し、プラットフォームを拡大するためにどのような種をまき、どのような価値提案を行うべきか、我々は理解していた。以前にも同じことを経験し、実現してきた実績が当社の強みだ」
ヒョンデ・モーター・グループは、ソナタスのイーサネット技術を車載接続システムの一部に採用した最初の自動車メーカーである。
「ヒョンデには称賛を送りたい。当時、ヒョンデにとって重要なのはコネクテッドカーであり、イーサネットへの移行によって車載ネットワークの近代化を進めていた。しかし、イーサネットは単純なものではなく、適切に適応させるのが難しい技術だ。当社にはイーサネットに精通した人材が数多くいる。そのため、当社の第1世代の製品で、ヒョンデの車載接続の問題を解決することができた。以来、我々はそれをベースに構築してきただけだ」
自動車メーカーの保守的な姿勢にはそれなりの対応が必要だったが、チョウ氏は「メーカーは保守的であると同時にコスト重視であり、イーサネットへの移行はコスト削減につながる。1万倍高速化しても、配線は少なくて済む。彼らは最新のネットワークに移行することでコストを削減できることに気付いたのだ」と話す。
イーサネットと最新のコネクテッドカーに切り替える大きなメリットの1つは、コスト削減が見込めることであった。
「コスト削減は常に最優先事項の1つだ。リスクの低減とコスト削減だ。時には、その両方を実現するために新しい技術を採用しなければならないこともある」
しかし、ソナタスがそうした需要に気付いた一方で、その需要がいつまで続くのか疑問に思う人もいるだろう。結局のところ、ほとんどの自動車メーカーは現在、ソフトウェアメーカーになりつつあり、技術を内製化しようとしている。
「もちろん、すべての自動車メーカーがすべてを自分たちでやっている」とチョウ氏は笑う。「彼らはそう言うだろう。実際、何千人ものエンジニアでチームを構成している企業もある。ソフトウェアスタッフの拡充に動いていない自動車メーカーには、わたしはまだ出会ったことがない。最大の競合相手は社内の開発チームだ。しかし、ソフトウェア定義型自動車は非常に大きなテーマであり、1社ですべてを行うことはできない。サプライヤーにもチャンスはある。正しい答えを見つけ出す必要があるだけだ」
ソナタスのような企業を、サスペンション専門企業に置き換えて考えてみよう。時には、自動車メーカーが外部の支援を導入することが理にかなっているケースもある。
「ソフトウェア革命が起こったあらゆる業界において、大手企業は皆、それを手中に収めようとしていた。それは当然のことだ。しかし、彼らは配管の開発に1000人のエンジニアを雇っても評価されないことに気づいた。自分のクルマの独自性をアピールすることに集中しなければならない」
「今、ソフトウェアインフラは注目を浴びている新しいものなので、彼らはそれを試さざるを得ない。彼らは何度も壁にぶつかり、それが我々のチャンスにつながる。わたしは自動車メーカーを批判しているわけではない。彼らは素晴らしいし、優秀なエンジニアもいる。我々は彼らから多くを学んできた。しかし、サプライヤーにもまだチャンスがある」
チョウ氏は、クルマの開発とソフトウェアの開発には本質的な違いがあると考えている。同氏は、従来の製造業は「非常に縦割り型」だと指摘する。「ADAS、サスペンションシステム、ボディコントロール、ステアリングホイールなどがあり、仕様書を作成してサプライヤーに送る。ソフトウェアは異なる。きちんとやろうと思えば、ソフトウェアは縦割り型ではなく横割り型の技術になる。組織全体にまたがるものだ」
ソナタスの目標はサービス企業として進化し、さまざまなメーカーに対して特注のソフトウェアを開発し、提供することだ。
チョウ氏は、同社は現在利益を上げており、昨年は約60%の成長を遂げたが、急速な成長よりも「人材の質」の維持に重点を置いていると語る。
また、ソフトウェア新興企業にとっての大きな課題は信頼性だという。
「トヨタ・カローラにソフトウェアを供給するとしたら、そのサポートを15年は継続する必要がある。安定性こそがすべてだ。自動車メーカーは、数年で消えてしまうシリコンバレーの企業を数多く見てきた」
製品寿命の長さは、チョウ氏が過去に携わってきた他の業界とは異なる自動車業界の特徴の1つである。もう1つの特徴は、その中央集権的な体制である。「わたしが関わる重要な顧客は20社ほどだ。IT業界では、顧客は数千社に上る。しかし、顧客数は20社でも、それぞれで要件が異なるため、より細分化されている」