アルファ・ロメオ 8C 2900B「バレーナ」(2) アルゼンチンでレースデビュー 戦時中はV12だった?

公開 : 2025.05.09 18:06

コロンボが描いたボディをまとう、8C 2900B「バレーナ」 アルゼンチンで得たあだ名はクジラ 高速道路で219.5km/hに到達 ブロワーの悲鳴と直8ツインカム・ノイズ UK編集部がレアな1台をご紹介

1951年も競争力の高かったアルファ 8C 2900

基本設計は10年以上前だったが、アルファ・ロメオ 8C 2900B コルサ・スペリメンターレの競争力は1951年でも高かった。ステアリングホイールを握ったアマチュアのカルロス・ペレス・デ・ヴィラ氏は、狭いサーキットでは扱いにくいと感じたようだが。

彼はアルゼンチン北東部、ロサリオの市街地コースで開かれたレースで3位に入賞。その東の海岸線、コスタネーラの高速コースでは、直列8気筒スーパーチャージャー・エンジンと流線型ボディの威力が発揮され、最速ラップを残している。

アルファ・ロメオ 8C 2900B コルサ・スペリメンターレ「バレーナ」(1941年式/ワンオフモデル)
アルファ・ロメオ 8C 2900B コルサ・スペリメンターレ「バレーナ」(1941年式/ワンオフモデル)    ジェームズ・マン(James Mann)

同年に開かれたブエノスアイレス・グランプリにも、「バレーナ」は出場。フェラーリジャガーといったマシンと渡り合ったものの、ペレス・デ・ヴィラは10周目にリタイアしている。

資料を遡ると、バレーナはクラッシュしていたらしい。その後は数10年間、ブエノスアイレスでバラされた状態のまま保管されていた。1980年代に、情報を聞きつけたアメリカのクラシックカー・ハンターが彼の自宅を訪れ、部品の一部を確認している。

発見されたコロンボのサイン入り図面

仲介人による取引交渉を経て、アルファ・ロメオ・コレクターでF1へも深く関与した、ヴィットリオ・ザノン氏が購入。「バレーナ」は、イタリアへの帰郷を果たした。

レストア作業に先立ち、アルファ・ロメオの歴史家、ルイジ・フージ氏はジョアッキーノ・コロンボ氏のサインが入った図面を捜索。アルゼンチンでは、レースを戦っていた頃の写真も発見された。

ジョアッキーノ・コロンボ氏が描いたといわれる、アルファ・ロメオ 8C 2900B コルサ・スペリメンターレ「バレーナ」の図面
ジョアッキーノ・コロンボ氏が描いたといわれる、アルファ・ロメオ 8C 2900B コルサ・スペリメンターレ「バレーナ」の図面    ジェームズ・マン(James Mann)

オリジナルのボディは、大部分が失われていなかった。当時から残っていた部分をすべて保存しつつ、ザノンは、トリノのコーチビルダーへ新しいボディ製作を依頼。レストアされたシャシーへ架装された。

1989年に、バレーナの復元作業は終了。同年9月に開かれたオランダ・アルファ・ロメオ・クラブイベントでお披露目されると、大きな話題を集めている。だが病を患っていたザノンは、オランダのクラシックカー・ディーラーを通じ、売却を決める。

ペブルビーチ・コンクール・デレガンスへ出展

英国人のクリス・マン氏が購入するものの、ほどなくしてモナコのレ・グランデ・マルケス・オークションに出品。オランダにラウマン自動車博物館を開設した、エバート・ラウマン氏が最終的に買い取っている。

彼は、クラシックカーを走らせることをこよなく愛してきた。コルサ・スペリメンターレも、もちろん頻繁に公道へ出ている。1996年と2001年、2002年のクラシックカー・イベント、ミッレ・ミリア・レトロスペクティブへの出場も果たしている。

アルファ・ロメオ 8C 2900B コルサ・スペリメンターレ「バレーナ」(1941年式/ワンオフモデル)
アルファ・ロメオ 8C 2900B コルサ・スペリメンターレ「バレーナ」(1941年式/ワンオフモデル)    ジェームズ・マン(James Mann)

3年後には、アメリカのペブルビーチ・コンクール・デレガンスへ出展。アルファ・ロメオ歴史博物館とも交流があった彼は、そこで担当者の共感を得て、8C 2900B ル・マン・ベルリネッタ、シャシー番号412033の貸出しへ繋がった。

2台の個性的なアルファ・ロメオが、1つの場所に揃ったのは70年ぶり。デザイナーのジョヴァンニ・アンデルローニ氏によるトゥーリング社製ボディと、コロンボが手掛けたボディを、しみじみと見比べることが可能になったといえる。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ミック・ウォルシュ

    Mick Walsh

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジェームズ・マン

    James Mann

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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