アルファ・ロメオ 8C 2900B「バレーナ」(3) ブロワーの悲鳴と重なるツインカム・ノイズ

公開 : 2025.05.09 18:07

コロンボが描いたボディをまとう、8C 2900B「バレーナ」 アルゼンチンで得たあだ名はクジラ 高速道路で219.5km/hに到達 ブロワーの悲鳴と直8ツインカム・ノイズ UK編集部がレアな1台をご紹介

クジラという呼称と調和しない優雅な容姿

完璧を求めるレストア職人のラウル・サン・ジョルジ氏は、塗装にもこだわった。「ボディパネルの内側から、オリジナルの塗装が見つかりました。イタリアでは利用が難しい、当時と同じセルロース塗料を利用するため、塗装時にはオランダへ運んでいます」

と話す彼は、燃料コックやガソリンタンクを再現するなど、アルファ・ロメオ 8C 2900 コルサ・スペリメンターレのシャシーへ注力。直列8気筒エンジンは、英国の専門家、ジム・ストークス氏へ託された。

アルファ・ロメオ 8C 2900B コルサ・スペリメンターレ「バレーナ」(1941年式/ワンオフモデル)
アルファ・ロメオ 8C 2900B コルサ・スペリメンターレ「バレーナ」(1941年式/ワンオフモデル)    ジェームズ・マン(James Mann)

「博物館のエバート・ラウマンさんも、熱心でしたね。進行状況の確認のため、6週間毎にオランダからイタリアを訪ねていました」

「当初は、ボディのプロポーションが狂っていました。オリジナルセクションを元通りにし、新調したサブフレームへ固定すると、印象が大きく変わりました。ボディ単体の重さは295kgで、簡単に持ち上げられる軽さに仕上がっています」

フロントグリルとヘッドライトも、1940年代のものへ復元。バレーナ、アルゼンチンの言葉でクジラという呼称とは調和しない、優雅な容姿だと筆者は思う。

ブロワーの悲鳴と重なるツインカム・ノイズ

細いパイプでフレームが組まれた、シートへ腰を下ろす。プロトタイプのスポーツレーサーとしては、車内空間が驚くほど広い。ダッシュボードには、ヴェリア社製のメーターが2枚。最小限のスイッチ類やレバーで構成され、往年の戦闘機のようでもある。

トランスミッションがリアアクスル側に載る、トランスアクスル・レイアウトで、フロアの中央には小さな峰が1本。その下を、プロペラシャフトが貫いている。

アルファ・ロメオ 8C 2900B コルサ・スペリメンターレ「バレーナ」(1941年式/ワンオフモデル)
アルファ・ロメオ 8C 2900B コルサ・スペリメンターレ「バレーナ」(1941年式/ワンオフモデル)    ジェームズ・マン(James Mann)

コクピット後方には、ボディ面へ埋まるように給油リッドが位置する。これは、戦後のティーポ33まで、アルファ・ロメオのレーシングカーへ共通して与えられていた処理で、古い飛行機にも似ている。

おもちゃのようなキーを差し込み、スターターボタンを押す。スーパーチャージャーで過給される直8エンジンが、豪快に目覚める。アクセルペダルは中央。ツインカムヘッドのエキゾチックなサウンドが、ブロワーの悲鳴と重なる。

湾曲した4枚構成のフロントスクリーンに、大径な3スポークのステアリングホイール。長く伸びたボンネットを眺めつつ飛ばせば、ルーマニアの若き国王を魅了した、1941年のアウトストラーダでの疾走が自然と想起される。

真骨頂は直8エンジン ドライな排気音

体験を例えるなら、戦時中のマクラーレンF1 GTRといったところ。ステアリングは驚くほど軽い。スリムな19インチ・タイヤが路面を掴むフィーリングは、手のひらへ鮮明に伝わる。

長いシフトレバーのストロークは短く、Hパターンをキビキビと往復できる。トランスアクスル・レイアウトだから、トランスミッションとの距離は遠いが、リンケージの精度は高い。

アルファ・ロメオ 8C 2900B コルサ・スペリメンターレ「バレーナ」(1941年式/ワンオフモデル)
アルファ・ロメオ 8C 2900B コルサ・スペリメンターレ「バレーナ」(1941年式/ワンオフモデル)    ジェームズ・マン(James Mann)

バレーナの真骨頂は、他の8Cと同様に直8エンジンだろう。3000rpmをすぎると明確にパワーの山が訪れ、シャープな咆哮が放たれる。石垣の横を通過すると、ドライな排気音が反響して背筋がゾクゾクする。ストレートでの加速も、相当に力強い。

サスペンションは前後とも独立懸架式で、リーフスプリングが横向きに組まれている。操縦性は至って滑らか。路面の凹凸による影響も、最小限といえるようだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ミック・ウォルシュ

    Mick Walsh

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジェームズ・マン

    James Mann

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

アルファ・ロメオ 8C 2900B「バレーナ」の前後関係

前後関係をもっとみる

関連テーマ

おすすめ記事