クジラがあだ名 アルファ・ロメオ 8C 2900B「バレーナ」(1) スタイリングは巨匠コロンボ
公開 : 2025.05.09 18:05
コロンボが描いたボディをまとう、8C 2900B「バレーナ」 アルゼンチンで得たあだ名はクジラ 高速道路で219.5km/hに到達 ブロワーの悲鳴と直8ツインカム・ノイズ UK編集部がレアな1台をご紹介
アルゼンチンで与えられたあだ名はクジラ
フェラーリで名を馳せた技術者が描き出した、流線型ボディが印象的なアルファ・ロメオ 8C 2900B コルサ・スペリメンターレ。第二次大戦中のイタリアで密かに誕生すると、殆ど往来のない高速道路、アウトストラーダで最高速テストに挑んだ。
そこでは、若き王様もステアリングホイールを握ったらしい。戦火が厳しくなると、シャシー番号412043を背負ったこのクルマは、秘密の倉庫へ匿われた。

終戦後は、南アメリカ大陸へ輸出。アルゼンチンへ辿り着くと、サーキット・デビューを果たし、ファンからは「バレーナ」という愛称が与えられた。これは、現地の言葉でクジラを意味していた。丸くカーブを描いたボディが、そう感じさせたのだろう。
一時はボロボロの状態へ追い込まれたが、21世紀に本格レストア。オリジナルのボディは復元され、2024年のグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードでは、英国人にもお披露目されている。その会場では、「スパイダー」と呼ばれていた。
現在は、オランダ(ネザーランド)のラウマン自動車博物館に収蔵されている。目玉の1台として。
戦前のF1マシンへ携わった巨匠コロンボ
このモデルの起源は、1941年2月へ遡る。巨匠、ジョアッキーノ・コロンボ氏のサインが記されたボディ図面が、その時に描かれている。
コロンボは、アルファ・ロメオの技術者だったヴィットリオ・ヤーノ氏を師に、21歳で自動車開発のキャリアをスタート。アルフェッタやティーポ308、312、316といった戦前のF1マシンへ携わりつつ、副業でフェラーリのV12エンジンも設計している。

当時のアルファ・ロメオは、航空機エンジンやトラックの開発へ注力していた。だが独裁政権を確立したベニート・ムッソリーニ氏は、モータースポーツでの覇権維持も、同社へ指示したのかもしれない。
8C 2900B コルサ・スペリメンターレのフォルムは、1937年のル・マン24時間レースを制した、ブガッティ・タイプ57 G「タンク」へ影響を受けたものだと考えられる。折りたたみ可能なフロントスクリーンや、スペアタイヤの搭載方法などで共通している。
エンジンとスーパーチャージャーに挟まれた、ウェーバー・キャブレターへのアクセス性を高めるため、脱着可能なサイドパネルも備わる。一方コロンボは、エンジン次第でマフラーパイプの本数を選べるよう、2種類のリア周りを描いている。