フォルクスワーゲンのEV ID.Rの挑戦 中国天文山でのレコードアタック秘話 前編

公開 : 2019.10.05 20:50

フォルクスワーゲンはEVのプロトタイプであるID.Rで、パイクスピークやニュルブルクリンク、それにグッドウッドでの記録を打ち立ててきました。それに引き続き先日中国の天文山で新たなタイムを記録しています。ID.Rでの記録に挑むチームを取材し今回の挑戦の裏話を探りました。

中国での知名度向上のため

フォルクスワーゲンID.Rは以前から天文山のビッグゲート・ロードでの記録を狙ってきた。ここは99のコーナーで構成され、全長10.9kmで1100mの高低差を駆け上がるコースだ。その平均傾斜度は10.14%にも達する。

このヘブンズ・ゲートに至る道路は2006に開通し、山頂までの自然で構成された美しい景色が魅力だ。巨大な岩山を切り開いて作られた急な山道である。普段は観光バスが使用するのみで、ゴールデン・ドラゴンXML6700(バス)がこの680psを発生するフォルクスワーゲン製EVのライバルだ。

天文山ビッグゲート・ロード
天文山ビッグゲート・ロード

この山道を攻めたクルマは少なく、ランドローバーは575psのレンジローバー・スポーツを持ち込みフォーミュラEのドライバー、ホーピン・タンがアタックしたが、その9分51秒という記録は非公式なものであり、やや長いコースでのタイムだ。

デュマが打ち立てた7分38秒535というタイムと、平均速度85.4km/hという記録は何を意味するのだろうか。ID.Rが以前打ち立てたのはパイクスピークやニュルブルクリンク・ノルドシュライフェにおけるEV最速記録、それにグッドウッドのヒルクライムコースであった。これらはモータースポーツの世界で有名な基準であり、ノルドシュライフェにおける6分5秒336というタイムが意味するものは誰でもわかるだろう。

VW製EVのパフォーマンスを象徴

しかし、フォルクスワーゲンが天文山で打ち立てた記録を、単なる曲芸だとして無視すべきではない。そもそも、メーカーが行うモータースポーツプログラムは曲芸としての側面を持つのだ。ID.RはEVのパフォーマンスを示すものではあるが、先日発表されたID.3とはそれほど深い関係はなく、IDファミリーの「スポーティさの象徴」であるだけなのだ。

この象徴的役割を果たすべく、フォルクスワーゲンにとってもEVにとっても最大の市場である中国におけるわかりやすい記録が必要だったのだ。フォルクスワーゲンは昨年中国で311万台を売り上げており、来年には中国向けIDモデルを発売予定だ。2023年までにフォルクスワーゲンは10車種のIDシリーズ投入を予定しており、2025年までに年間100万台のEVを販売したい同社にとっては必要不可欠の市場となっている。

ドライバーのデュマ
ドライバーのデュマ

しかし中国はパイクス・ピーク(ヒルクライムは1916年から)やノルドシュライフェ(1927年オープン)のような歴史的なモータースポーツの拠点に乏しい。上海国際サーキットが2004年に開業し、フォーミュラ1でも使われてはいるが、それほど魅力的とは言えない。

そこでフォルクスワーゲンは歴史的なコースを攻略するのではなく、自らの手でその舞台を作り上げたのだ。そして今までのレコードを塗り替える代わりに他のライバルが目指すべき基準となるタイムを打ち立てたのである。天文山が選ばれたのは、過酷で曲がりくねったヒルクライム型の道路があるだけでなく、中国内でもメジャーな観光地であることが理由だ。

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