「六本木のカローラ」 BMW 320i(E30) 後編 乗ってわかるアナログっぽさ

公開 : 2019.10.06 05:50  更新 : 2021.10.11 14:52

後編では、「六本木のカローラ」に乗ってみます。こってりと残るアナログっぽさを、文章からも感じ取れるでしょう。クラシックとネオクラシックの分岐点を探ります。

アナログが生む荒さと懐かしさ

photo:Satoshi Kamimura(神村 聖)

丸目4灯のランプとキドニーグリルを組み合わせた表情はBMWそのもの。

けれどE30型3シリーズは、絵に描いたように平凡なノッチバックスタイルの4ドアセダンである。

BMW 320i(E30)
BMW 320i(E30)

特にリアのトランク部分がハイデッキになっていない姿が「ネオクラシック」の風情を醸し出す。

4325mmという全長は現行のBMW 1シリーズに近いが、3代目となる現行1シリーズは5ドアハッチバックとなっている。

全長よりも時代を感じさせるのは全幅の方で、現行1シリーズは1800mmの大台に到達してしまったが、E30は1650mmに留まっている。

外観の見た目通り、E30の室内は広くない。横方向が特にタイトな空間に標準的なサイズ感のシートがはまっている。

今回の撮影車両はBMWスペシャリスト、オートスクエアーエノモトが新車同様に仕上げた1989年式のBMW 320i。キーを捻ってエンジンを始動させる。80年代のエンジンはE30を含めほとんどが電子制御になっており、始動にキャブレター車のようなコツはいらない。

だがブルンと車体を揺すらせた後、1気筒ずつ火が入っていく様子は、現代のエンジンにはないアナログらしさが感じられる。

水温系の針が動き出したことを確認し、T型のシフトレバーをDモードまで動かすと、再びブルンと車体が揺すられ駆動が繋がる。

マウント類の柔らかさや機構的な荒っぽさにもちょっとした懐かしさが漂う。

贅沢エンジン「ストレート6」 走りは軽快

ATの微かな滑りを感じさせつつ、320iで走り出してみる。

現代車との違いは「ガソリンが爆ぜている!」とわかるストレート6エンジンの生々しさと、車体の軽さにある。

「シルキーシックス」と称えられるBMWのストレート6ユニット。
「シルキーシックス」と称えられるBMWのストレート6ユニット。

アクセルの踏みはじめこそトルクの細さを感じるが、「シルキーシックス」と称えられるBMWのストレート6ユニットの緻密な回転フィールは4気筒とは別物。

現代のエンジンが「効率の高さ」を得る代わりに失ってしまったものが、このパワーユニットにはある。

E30の320iの最高出力は129ps。現行BMWにも320iというモデルがあるが、こちらは4気筒ターボで183psもある。

ところが車重1tあたりの馬力はE30の114psに対し現行モデルは121psなので、新旧320iの動力性能には最高出力ほどの違いがない。

E30型320iが備えるATギアボックスは4速なのでギア比は離れ気味だ。このため良く言えば1速ごとにエンジン回転の高まりを感じられるが、加速途中にスピードの落ち込みがある。

E30は5速MT(マニュアルシフト)のモデルも輸入されていたので、それなら高回転型エンジンの旨味を引き出せるはずだ。

E30型320iの車体重量は1125kg。この数値は5人乗りなら現代のホンダフィットスポーツカーならロータスエキシージSに近い。

といえば「若干ノーズヘビーだが、走りは軽快」、と言う表現にも納得がいくだろう。だがE30型320iの走りを軽快にしている最大の原因は、実際の車重以外の部分にある。

記事に関わった人々

  • 吉田拓生

    Takuo Yoshida

    1972年生まれ。編集部員を経てモータリングライターとして独立。新旧あらゆるクルマの評価が得意。MGBとMGミジェット(レーシング)が趣味車。フィアット・パンダ4x4/メルセデスBクラスがアシグルマ。森に棲み、畑を耕し蜜蜂の世話をし、薪を割るカントリーライフの実践者でもあるため、農道のポルシェ(スバル・サンバー・トラック)を溺愛。
  • 神村聖

    Satoshi Kamimura

    1967年生まれ。大阪写真専門学校卒業後、都内のスタジオや個人写真事務所のアシスタントを経て、1994年に独立してフリーランスに。以後、自動車専門誌を中心に活躍中。走るのが大好きで、愛車はトヨタMR2(SW20)/スバル・レヴォーグ2.0GT。趣味はスノーボードと全国のお城を巡る旅をしている。

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