【時代はくりかえす】なぜ車体後部がギュッと持ち上がったデザインのクルマ増えた? 水平基調に戻る動きも

公開 : 2020.07.21 05:50  更新 : 2021.10.22 10:15

クルマのボディ、野性動物に例えると

ウェッジシェイプのボディ形状を採用する理由をメーカーのデザイナーに尋ねると、以下のように返答された。

「サイドウインドウの下端を後ろに向けて持ち上げ、ルーフラインを逆に下げると、重心が後ろ側に加わったフォルムになるのです」

現行型ジャガーFタイプ。猫などの動物は、ジャンプや疾走を開始する直前など、重心を後方に移して一気に跳躍する。
現行型ジャガーFタイプ。猫などの動物は、ジャンプや疾走を開始する直前など、重心を後方に移して一気に跳躍する。    ジャガー

「溜めた力を一気に放ってダッシュを開始するような雰囲気です」

「クルマは走っている時の姿が大切で、美しくカッコ良く見せる必要がある。そこを考えると、サイドウインドウの下端を後ろに向けて持ち上げた外観デザインは、走る楽しさを大切にするクルマとは相性が良いのです」

クルマは走るツールだから、メカニズムからデザインまで、野性動物に例えられることが多い。

例えば駆動方式について。野性動物は主に体重の加わる後ろ足を使って、前進する力を伝える。

前足は方向を変える役目をするので、走行性能を高めるには、後輪駆動やこれをベースにした4WDが適しているといわれる。

デザインについても、先のコメントにあった「重心が後ろ側に加わったフォルム」に見えることから、ウェッジシェイプを採用する。

身近な動物では、猫を思い浮べるとわかりやすい。ジャンプや疾走を開始する直前など、重心を後方に移して一気に跳躍する。

これをクルマのデザインに置き換えると、ウェッジシェイプになるわけだ。

ただしウェッジシェイプには欠点もある。

ウェッジシェイプ、欠点も

ウェッジシェイプには欠点もあり、ドライバーに対して斜め後方や真後ろの視界が悪化する。

サイドウインドウの下端を後ろに向けて持ち上げ、ボディ後端のピラーも太くするから、サイドウインドウの面積が狭まって必然的に視界が悪くなる。

ウェッジシェイプには欠点も。前後の死角が、しばしば運転のしやすさを損ねる。
ウェッジシェイプには欠点も。前後の死角が、しばしば運転のしやすさを損ねる。    マツダ

そうなると後席に座った乗員の閉鎖感も強まり、周囲の風景も見えにくい。乗員によっては、クルマ酔いを誘発する。

そしてウェッジシェイプのボディスタイルは、重心が後ろ側に加わった見せ方だから、造形バランスに基づいてボンネットを前方に向けて傾斜させる車種が多い。

そうなるとドライバーからは、ボンネットも見えにくくなる。後方視界の悪さと相まって、ボディの四隅の位置もわかりにくくなってしまう。

今はボディが全般的にワイド化して、全幅が1800mmに達する車種も増えているため、ますます運転がしにくい。

今は各種のモニターが装着されて死角を補うが、後退時は自分の目で後方を確認するのが基本だ。

左右方向から急速に接近する自転車など、モニターでは見落とすことも多い。

ウェッジシェイプのクルマを購入する時は、縦列駐車や車庫入れを行って、側方と後方の視界、小回り性能などを確認したい。

記事に関わった人々

  • 渡辺陽一郎

    Yoichiro Watanabe

    1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆様にケガをさせない、損をさせないこと」を重視して、ユーザーの立場から、問題提起のある執筆を心掛けている。買い得グレードを見極める執筆も多く、吉野屋などに入った時も、どのセットメニューが割安か、無意識に計算してしまう。

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