【140年前の元祖電気自動車】ギュスターヴ・トルヴェの電動三輪車 レプリカでパリを走る

公開 : 2021.05.28 09:45

現代の電動自転車用部品を流用

インターネットで検索を進めると、ビクトリア朝期の自転車や三輪車を手作りする、クリスチャン・リチャーズという人物に辿り着いた。もとITエンジニアだったという彼は、わたしのアイデアを聞くと、戸惑うことなく賛同してくれた。

「不思議なことに電話をもらった時、わたしもコベントリー・レバーと呼ばれる三輪車に、電気モーターを積んではどうかと考えていたんですよ」。と、教えてくれた。

ギュスターヴ・トルヴェの電動三輪車(1881年)
ギュスターヴ・トルヴェの電動三輪車(1881年)

リチャーズは、トルヴェによる1881年の初走行のことは知らなかったようだが、レプリカを可能な限り正確に作ろうと努力してくれた。当時の画像や資料は限られており、非常に困難な課題だった。

しかも、筆者がリチャーズに相談したのは、トルヴェの記念すべき日の6週間前。残りの時間は長くない。

リチャーズはワークショップにこもり、三輪車の制作を進めた。全体の参考にしたのは、1881年当時のイラスト。A1サイズに拡大している。フレームは完成形があったが、3本のスポークホイールを素材から作り、フレームに取り付けるだけで1日を要する。

電気モーターは彼にとって新しい部品だった。「メインの駆動用に、追加のスプロケットを備えた現代の電動自転車用バッテリーとモーターを取り付けました」

「コベントリーレバー三輪車のペダルとレバーは、レプリカでも残してあります。ブレーキの補助としても有効です」

140年前にトルヴェが見たパリの光景

製作開始から1か月後、リチャーズはトルヴェのレプリカを完成させ、パリへ向かう準備が整った。しかし、コロナウイルスの影響でパリはロックダウン中。リチャーズはフランスへは移動できなかった。

今回のプロジェクトは、英国ウェスト・ミッドランズで商用バンの製作を手掛ける、中国のマクサス社の支援を受けている。パリまで、彼らのバンでレプリカを運搬してくれた。

ギュスターヴ・トルヴェの電動三輪車(1881年)
ギュスターヴ・トルヴェの電動三輪車(1881年)

完成したトライクを載せたバンとともに、筆者は英国を後にした。ドアミラーに小さく映るリチャーズの姿は、寂しそうだった。

フランス・パリは、ゴーストタウンと化していた。唯一、年配の紳士2人に立ち会ってもらっただけ。電気の力で走るトルヴェの電動三輪車が、パリの石畳を走る。路面の凹凸で揺れ、ガタガタと音を立てる。2人の紳士が、熱心に視線を向ける。

1人は、トルヴェの子孫に当たるシャルゲロン。彼は笑顔を見せながら声を上げる。「なんと美しい。とても美しい乗り物ですね」

ロックダウン中のパリにはクルマがなく、ヴァロワ通りの様子は1881年4月の頃と大きな違いはないように見える。現代的な建物や看板などの姿はほとんどない。140年前にトルヴェが見た光景を、筆者もそのまま体験しているように感じた。

電気戦車に乗った悪魔。140年以上も昔に電気自動車に乗った、未来を見越した鬼才。トルヴェの功績は、今へと続いている。

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