フェラーリ・カリフォルニアT

公開 : 2014.05.31 23:50  更新 : 2017.05.29 18:53

■どんなクルマ?

フェラーリの誇るハードトップを備えたグランド・ツアラーの進化版が、このカリフォルニア Tだ。

デビューしてから既に6年が経ったカリフォルニアにフェイスリフトがなされたことにより様々な点に改良が施された。なかでも特筆すべきは ”T” の意味する、ツイン・ターボ加給に変更された点だろう。

先代モデルの4.3ℓNAエンジンに代わり、3.9ℓ(正確に言うならば3.85ℓ)の新開発エンジンを採用した。排気量こそ小さくなったものの、ツイン・ターボの手助けを受けて最高出力は先代比+71psとなる560psを誇る。

さすがのフェラーリでさえ経済性を無視できないのがいまのご時世だと言えよう。その結果、CO2排出量は先代が299g/kmだったのに対して、カリフォルニア Tは250g/kmまで削減することに成功したのだ。ちなみにこの値はヴォグゾール・インシグニア VXRよりも良好だということを意味する。さらに燃費は9.5km/ℓを達成し、最大トルクは時に77.0kg-mを誇る。

“時に” というのがどういうことなのか、それは全体的に長いギア・レシオとなったツイン・クラッチ・トランスミッションが7速にシフトした時のみ最大出力を発生する、という意味だ。またこれは、ドライブラインそのもののせいであるわけではないので注意が必要だ。

ではなぜそのような設定にわざわざしたのか、である。フェラーリに代表する魅力といえばそのエンジンだということは今更言うまでもないだろう。研ぎ澄まされたシャープな回転、高らかに響き渡るエグゾースト・ノートはフェラーリのなすべき使命といっても過言ではないはずだ。言い替えれば、フェラーリの魅力は自然吸気エンジンそのものだとも言えるのだ。

だからこそ、1速から3速でのトルクは敢えて60.9kg-mに抑えられ、7速時におけるピーク・トルクにむけて回転に比例しながらトルクを増大させていくのである。

このアイデアは低速ギアで走行する際に非常にNAエンジンらしい吹け上がりを見せる。

単刀直入に言うならば、ターボのレスポンスを遅らせているということにもなるのだが、結果的にGTカーとしての適切なマイルドさを維持している事になるため心配はいらない。そのことに関しては、後ほど詳しく書いていくとしよう。

外装はルーフこそ変更はされていないが、それ以外ほとんどのデザインが見直された。インテリアは、ダッシュ・ボードのデザインと用いられるレザーなどがさらに上質になり、(日光を反射した際は使い物にならない)ブースト・モニターが新たに追加され、最上級の完成度とは言いがたいがコミュニケーション・スクリーンが改善された。

そしてついにバネ・レートが12%引き締められ、(個人的には以前のままで良いが)10%ステアリングがクイックになり、磁性流体式ダンパーの応答速度がとても速くなったのである。

■どんな感じ?

先代のカリフォルニアも決してパフォーマンスに不満は無かったが、カリフォルニア Tはコントロールの精度がさらに高まり、コンフォート・モードのみならずスポーツ・モードでも乗り心地が良くなっていることがわかる。もちろんスポーツ・モードに入れれば、ダンパーのセッティングは引き締められるが、458イタリアのそれに比べると幾分穏やかである。

カリフォルニア・オーナーの70%が、フェラーリ自体を初めて購入する人々だという。そして彼や彼女らは、いわば ”ミド・エンジンの暴れ馬” としてのフェラーリを期待しているわけではなく、あくまで豪奢さを兼ね備えたグランド・ツアラーを欲しているのである。

ただそう考えると、カリフォルニア Tは力強さを増している故にいささか過激すぎやしないかと考えるのも無理は無いだろう。そんなカリフォルニアTがどのようなアプローチをするのか、早速見ていくことにしようではないか。

定説どおりレスポンスは鋭い。ただもっとも興味深く、議論の対象になるのはエンジンだろう。恐らくターボが奢られたせいだと思うが、エグゾースト・ノートの音量は小さくなった。ただしフラット・プレーン形式のクランク・シャフトと等長エキゾースト・マニホールドを用いられているおかげでスバルの水平対向ユニットと違った、生々しくもあり、澄み渡った音を耳にすることができる。ただし、もう一度書くが音量は小さい。

低速ギアでのパワーの湧き上がりはごく自然に仕立てられている。また、ターボ車としては高い7500rpmで湧き上がるトルクは、アクセルを踏み込みパワーを引き出す歓びを与えてくれる。

また低速ギア側のターボ・ラグは(気づかないといえば嘘になるが)抑えられている。ターボ・ラグを皆無にするには無理な話だが、そんななかでもかなり優秀だと感じる一方、高速側では目立つようになる。その代わりに、相応の速度を出そうと思った時にシフト・ダウンしたり、エンジンを上まで回す必要がなくなっているため、グランド・ツアラーとしてはよい方向に改善されたといっていいだろう。だからといってターボ・ラグが生じることに落胆する必要なない。なぜなら、さすがはフェラーリ。高回転域でのレスポンスは疑いようもなく超一流で、NAだろうがターボだろうがフェラーリの手にかかれば陶酔モノのエンジンが仕上がるのだなと感心させられる。

筆者にとって、少しばかり納得がいかないのはステアリングの方だ。というのも、少し軽すぎるだけでなくクイックすぎると感じるからである。ロック・トゥ・ロックが2.3回転というのだからさほどクイックではないと思うかもしれないが、最小回転半径が小さいだけにさらにクイックに感じるのだ。

ただしハンドリング・バランスに関しては文句ない。フロントにエンジンを積み、リアから駆動するこの車は僅かに後方に重量がかけられている。この古典的なFRレイアウトのおかげでコーナリングの楽しさを約束してくれる。少しだけブレーキを残しながらコーナーに鼻先を入れ込めば、アンダー・ステアになるのは必須で、さらに溢れんばかりのパワーとLSDのおかげで、テールは滑り出し…とまぁ後はご想像にお任せします。

では最後に、それ以外の注目点を書き記すとしよう。車両価格は£150,000(2,221万円)。またリアのちっぽけなシートは先代のオーナーのうち、僅か1%しか使用する人がいなかったためオプションとなった。0-97km/h加速はローンチ・コントロールを使用すれば3.6秒で、最高速度は316km/hにのぼる。また、なにかひとつオプションを選ぶ度にうんざりする程のお金を請求されることは、他のどのフェラーリとも変わりない。

■「買い」か?

恐らく買って後悔することはないはずだ。他にもメルセデス・ベンツ SLやベントレー・コンチネンタルなど選択肢はあることは認めるが、カリフォルニア Tを選ぶ理由を見つける方が簡単だ。

なぜならこのカリフォルニア Tは、一言で言うならほかのライバルと ”異なっている” からである。”異なっている” と言うのはつまり、ターボ・ラグ云々という意味ではなく、随所にどのメーカーも真似できないフェラーリ流の見事な洗練が散りばめられている、ということである。

(マット・プライヤー)

フェラーリ・カリフォルニアT

価格 £150,000(2,550万円)
最高速度 315km/h
0-100km/h加速 3.6秒
燃費 9.5km/ℓ
CO2排出量 250g/km
乾燥重量 1625kg
エンジン V型8気筒3855ccツインターボ
最高出力 560ps/7500rpm
最大トルク 77.0kg-m/4750rpm
ギアボックス 7速デュアル・クラッチ

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